頼朝勘定
源頼朝と北条政子とのおかしな出会いを描いた「頼朝勘定」、若き日の織田信長が変わった方法で家臣を召し抱える「松風童子」、武田勝頼の人質となったおふうを描いた「おふうの賭け」、紫衣事件に関与した沢庵を描いた「おせんと沢庵」など、11作品を収録した短編集。 |
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収録作品
松風童子
主な登場人物
あらすじ
斎藤道三との戦に敗れ帰城した織田信秀の元に禁裡から錦の布(き)れが届きました。ところが、その錦は嫡男の信長が持ち出し、賭博に使われてしまいます。
その頃、城では、斎藤道三がいつ攻めてくるかわからない状況だったため、すぐに城門を閉ざす必要がありました。しかし、禁裡の使者を迎えている以上は、城門を閉ざせず、戦に疲れた兵士たちに城門を守らせるしかありませんでした。
そんな時、信長が突飛な姿で帰って来ます。
読後の感想
若き日の織田信長を主人公にした短編です。
信長は、誰も思いつかないような発想をすることで有名ですが、本作は、彼のその発想力が若い時から身についていたことを物語としています。
信長が、大切な錦を持ち出したのは、有能な家臣を得るためでした。しかし、信長が家臣にしたいと思っていた人物は、父信秀の目からは役立たずにしか見えません。なぜ、信長は、その人物を家臣としたかったのか、その理由に信長の人を評価する目の鋭さが見られます。
疾風浪人
主な登場人物
あらすじ
伊勢の津城の茶室で、城主の藤堂高虎が家臣の鬼頭甚内に茶を差し出します。その茶を飲み干した甚内は、啖呵を切って茶室から出、主君の元を去りました。
主君を捨てた者に追手を差し向けられるのは、武家社会の常。藤堂高虎も、鬼頭甚内を討つために追手を差し向けます。
追手として甚内に追いついたのは、須知九右衛門の娘の伊予でした。甚内は、女子を追手として差し向けられたことに腹立たしく感じるのでした。
読後の感想
江戸時代初期の物語です。
藤堂宝虎の元を去った鬼頭甚内を斬るために女性の伊予が追いかけます。屈強な侍を10人ばかり追手に遣わしたのなら、鬼頭甚内も望むところだったでしょうが、相手が女性となると刀を抜いて応戦する気にもなりません。
なぜ、伊予が追手に差し向けられたのか。そこには、藤堂高虎の深い思慮と家臣を思う優しさがありました。
頼朝勘定
主な登場人物
あらすじ
蛭ヶ小島に流された源頼朝は、伊東祐親の娘八重との間に千鶴丸を授かりましたが、平家を恐れた祐親が千鶴丸を殺し、八重を頼朝から引き離しました。
その後、頼朝は、安達盛長の妻笠戸に北条時政の妹姫である真喜に恋文を渡すように命じましたが、笠戸は、容色も才気も優れた姉姫の政子に恋文を渡すのでした。
読後の感想
蛭ヶ小島に流罪となった源頼朝と北条政子の出会いを描いた短編です。
北条を味方につけたかった頼朝の真意をわからなかった笠戸は、真喜ではなく政子に彼の恋文を渡します。恋文には、「妹」と書かれており、これは真喜にあてたものだと政子は気づくのですが、頼朝は見え透いた嘘をついて真意を隠そうとします。
何もかも見通している政子とどうにかして嘘をごまかそうとする頼朝。すでにこの時から、北条と頼朝との関係は決まっていたようです。
本阿弥辻の盗賊
主な登場人物
あらすじ
狐坂の蟹沢丸、通称ガニ丸は、本阿弥辻の本阿弥光二の屋敷に忍び込み盗みを働こうとしていました。
本阿弥家の屋敷に忍び込むのはこれが4度目。織田信長の上洛以来、治安を守るため規則が厳しくなり、ガニ丸は細々としか盗みを働くことができず、同じ家に何度も忍び込むしかありません。
勝手知ったる他人の家と油断したガニ丸は、本阿弥光二の妻の妙秀に見つかるのでした。
読後の感想
戦国時代の盗賊の話です。
盗賊と言っても、ちょっと間抜けな盗人のガニ丸が主人公で、同じ家に4度も盗みに入ったことから、家主に見つかってしまいます。
しかし、家主の妻の妙秀は人が良く、ガニ丸は何とか言い逃れできそうだったのですが、そこに本阿弥光二が現れ事態が一変します。ガニ丸の運命はどうなるのか。
五両金心中
主な登場人物
あらすじ
和泉屋庄造の娘のお藤は、父の留守中に自宅の八重桜の下に見知らぬ男が立っているのに気づきました。
男は、桜のかげから厩のあたりを覗き込んでいます。その視線の先には、もう一人若い武士がいました。男は、お藤に近づかないように合図した後、若い男と斬り合いになります。
斬り合いの音が聞こえなくなり、お藤が恐る恐る母屋座敷の縁外に出た時、若い侍が暗い座敷の中から声をかけてきたのでした。
読後の感想
幕末の短編です。
幕府の瓦解で、切腹を思い立った大草善四郎とそれを止めるお藤。二人の出会いはそこから始まります。西軍の追手に見つからないよう、ほとぼりが冷めるまで自宅にかくまおうとするお藤でしたが、家族に大草善四郎の存在を知られてしまいます。
戊辰戦争の影で、生きることに希望を見いだせなくなった武士はこれからどうするのか。
安土の密譚
主な登場人物
あらすじ
白井八五郎直勝は、ある日、主君の織田信長に安土城に呼ばれます。
信長は、昨日訪れた宣教師のワリヤーニから献上された七尺二分もある黒い大男を八五郎に預けると言い出しました。信長は、武田勝頼攻めに際し、この大男に三間柄の朱塗りの槍を担がせようと考えており、それまでに八五郎に訓練させるつもりでした。
自宅に帰った八五郎は、大男を弥助と名付け、ともに一つ屋根の下で暮らす日々が始まるのでした。
読後の感想
戦国時代に日本にやって来た黒人の弥助を描いた短編です。
言葉が通じない弥助にどうやって槍の使い方や馬の乗り方を教えたら良いのか、戸惑う白井八五郎直勝。
しかし、親切に接する八五郎とその家族たちに弥助も次第に心を開いていきます。
おふうの賭け
主な登場人物
あらすじ
作手亀山城城主の奥平貞能の嫡男貞昌の新婚間もない奥方「於阿和の方」と名乗り、武田勝頼の人質になったおふう。
おふうは、うまく勝頼とその妻の小田原御前を騙し、於阿和の方として日々を過ごしていました。しかし、奥平家が、徳川に味方したことから、おふうは牢に入れられるのでした。
読後の感想
奥平家から武田に人質にあずけられたおふうが主役です。
いかに人を騙し出世するかは戦国時代なら当たり前。本作に当所するおふうは、武田勝頼夫妻を騙し出世を目論むも、奥平家の裏切りにより牢に入れられることになります。
その牢内で、おふうは、助かるための賭けを思いつきます。彼女の賭けは成功するのか。
おせんと沢庵
主な登場人物
あらすじ
寛永6年(1629年)8月1日の午後。
沢庵和尚が東照宮の法度に背き、羽前上ノ山に遠島になりました。藩の家老の今泉清左衛門らは、かめやの娘のおせんに時々沢庵を湯に入れさせて欲しいと頼みます。
しかし、それは表向きの理由で、家老らは、おせんに沢庵の行状を逐一知らせさせるのが目的でした。
読後の感想
紫衣事件に関与した沢庵宗彭を描いた短編です。
上ノ山に流罪となった沢庵をかめやのおせんが面倒を見ることになります。
なぜ、沢庵が流罪となったのか、おせんは彼を世話する中で、事件の真相を知ることになります。
八弥の忠義
主な登場人物
あらすじ
松平広忠の影武者として働く岩松八弥のもとに植村新六郎(氏明)が見舞いに来ました。そして、八弥に妻帯をすすめます。
しかし、八弥はその話を断りました。
その頃、松平家は、今川と織田に挟まれ厳しい立場にありました。八弥は、主君の身辺警護につき忠義を尽くします。ところが、ある日、八弥が思いがけない行動に出るのでした。
読後の感想
戦国時代に松平広忠に仕えた岩松八弥を主人公にした作品です。松平広忠は、徳川家康の父です。八弥は、一眼で片目八弥と呼ばれており、広忠に忠義を尽くしていました。
後に八弥は広忠を殺害するにいたります。忠義者の八弥がなぜ主君を手にかけたのか、そして、八弥の忠義とは何だったのか。戦国時代の武士の生き様が描かれています。
親鸞の末裔たち
主な登場人物
あらすじ
常州笠間藩は、豊作の時に貯め込んだ米を不作の時に放出したものの、以後も不作が続き、厳しい年貢の取り立てに耐え切れず農民が逃げ出してしまいました。
これによって、八万石の石高は、四万石にまで減少し、藩として何とかせねばならない状況になりました。そこで、加賀の前田藩から浄土真宗の僧侶良水とともに移民を受け入れます。そのおかげで、石高は回復したものの、昔からいた農民と移民との仲が悪くなり、その責任を良水に取らせようとするのでした。
読後の感想
江戸時代の移民問題を題材にした短編です。
笠間藩は、良水のおかげで石高を回復できたものの、農民と移民との仲が悪くなり、その責任を良水に取らせようとします。良水を斬る役を命じられたのは、板橋信悟兵衛。
藩財政の立て直しは、良水のおかげなのにその恩人を斬るなどという理不尽なことはできない板橋信悟兵衛でしたが、良水を恨むお八重と偶然出会い、勿怪の幸いと喜びます。その結末はいかに。
月の輪鼻毛
主な登場人物
あらすじ
後醍醐天皇から倒幕の秘命を受けた日野俊基と面会することになった柳生永珍。
しかし、屋敷の前にやって来たのは日野俊基ではなく、まん丸とした若い女でした。女は、日野俊基の同行者だと述べ、間もなく、その日野俊基も柳生永珍のもとにやって来ました。
女は、楠木正成が日野俊基につけた者でした。
永珍は、日野俊基の話を聴くものの、その女が全く異なることを話し始めたため、どちらが本当のことを語っているのか混乱するのでした。
読後の感想
後醍醐天皇の倒幕計画を題材にした短編です。
日野俊基が、柳生永珍のもとを訪れる前にまん丸とした女が先に現れ、永珍を混乱させます。
日野俊基と女が語る内容は全く異なります。一体どっちが本当のことを言っているのか。実はその背後には、用心深い楠木正成の存在がありました。
頼朝勘定-山岡荘八 |
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