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日蓮

師の須藤経元と渚の死。親を殺して地頭になった東条景信。承久の変で3上皇を流罪とした鎌倉幕府。地頭の命で子を持つことが許されない百姓。世の中のしきたりに違和感を感じた善日(日蓮)は、清澄山の道善法印のもとで修行する決心をしました。

主な登場人物

あらすじ

安房国長狭郡東条郷の地頭の東条秋則の館で、父の三十三回忌の法会が行われていました。

善日(日蓮)は、東条秋則に目をかけられ、その子の春若(東条景信)の手本となるよう期待され、法会の際も手伝いをしていました。

そして、師の須藤経元も善日に期待をかけていました。しかし、須藤経元は、かつて北面の武士として朝廷に仕えており、後鳥羽上皇らが承久の変で流罪となったことに憤っており、土御門上皇が崩御した阿波に旅立つ決意をします。

須藤経元が旅立った後、彼に思いを寄せていた渚が死体となって見つかりました。東条の人々は須藤経元が渚をたぶらかしたと思い、彼を捕らえた東条景信は、鎌倉に北条義時の命を狙っていた者として護送します。やがて、須藤経元は死罪となりました。

幕府による3上皇の島流し、渚の死、親の秋則を殺し家督を継いだ東条景信。そして、地頭の命により、子を産むことも許されない百姓を見て、善日は、この世のしきたりに違和感を覚えるのでした。

読後の感想

法華経を布教した鎌倉時代の日蓮を主人公にした作品です。

仏教の教えが広まることで人々が救われるはずなのに現実の世界は、まったくそうなっていないことに疑問を感じた善日(のちの日蓮)は、清澄山の道善法印のもとで修行することにしました。

しかし、日蓮は、清澄山でどんなに修行しても、自分が知りたいことを知ることができません。それどころか、仏教で戒められている色欲は、生物の本能であり、これを取り除くことは人間の誕生を否定することになり、守れない戒律が存在することに大きな疑問を感じます。

そんな時、日蓮はある念仏僧と出会い、浄土真宗の教えで妻帯が許されていること、阿弥陀如来が悪人でも成仏させてくれることを知り、さらに疑問が深まっていきました。なぜ、仏教の中には、いくつも宗派があるのか、そして、釈尊はいったい何宗なのか、考えてもその答えは全くわかりません。

しかし、数多くの経典を読むことで、日蓮は、釈尊の死後の世界が 正法時代、像法時代、末法時代に分かれ、現在が末法時代にあることを知ります。そして、末法時代には、法華経こそが衆生を救う唯一のものだとの結論に辿りつきます。

ここからが、日蓮にとって本当の苦難の時代に入ります。これまでに偉大な僧は何人もいましたが、日蓮ほどに経典を読み込んだ僧はいませんでした。それ故、彼の言葉は、彼ほど深く経典を読み込んでいない他宗派の僧たちから邪宗と罵られ、生命の危険にさらされていきます。

日蓮の苦難は、より多くを学び真理にたどり着いた者に共通の試練と言えます。地球が丸いことや太陽の周りを地球が回っていることは今では常識となっていますが、かつては、地球は平らで、星々が地球の周りを回っていることが常識とされていました。そんな時代に地動説を発表したガリレオ・ガリレイが迫害されたのは、日蓮が法華経を布教した時と同じようなものです。

本作は、日蓮の半生を描いています。元寇の際に他宗を廃し法華経を信じよと布教する場面は描かれていません。著者は、立正安国論までが、日蓮の生涯にとって最も重要な期間だと考えたのでしょうか。

日蓮-山岡荘八
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