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新選組血風録

幕末の京都で活躍した新選組の短編15作が収録されています。伊東甲子太郎の脱退を描いた「油小路の決闘」、近藤勇の愛刀「虎徹」の秘話、剣の達人沖田総司の恋を描いた作品など。個性的な新選組隊士たちが多数登場します。

収録作品

  1. 油小路の決闘
  2. 芹沢鴨の暗殺
  3. 長州の間者
  4. 池田屋異聞
  5. 鴨川銭取橋
  6. 虎徹
  7. 前髪の惣三郎
  8. 胡沙笛を吹く武士
  9. 三条磧乱刃
  10. 海仙寺党異聞
  11. 沖田総司の恋
  12. 槍は宝蔵院流
  13. 弥兵衛奮迅
  14. 四斤山砲
  15. 菊一文字

油小路の決闘

主な登場人物

あらすじ

耳の中を水で洗う妙な癖を持つ篠原泰之進は、鈴木三樹三郎とともに花見をした帰り道、3人の浪士と斬り合いになります。

泰之進は、見事な剣技で相手の腕を斬り落とし浪士たちを追い払ったのですが、気づかぬ間に腰を斬られていました。新選組では、私闘で傷を負った場合は切腹という厳しい規律があり、泰之進は自分の命もこれまでと思い切腹を決意します。しかし、妾のおけいに諭された泰之進は、切腹を思いとどまり、何事もなかったように翌日から隊努に就くのでした。

それから時は過ぎ、泰之進は、伊東甲子太郎とともに新選組を脱退し御陵衛士となります。脱退を許さない新選組は、伊東を暗殺。その遺体を引き取るため泰之進は、仲間とともに七条油小路に向かうのでした。

読後の感想

新選組最大の内部抗争である油小路の変を描いた作品です。主人公は新選組を脱退し御陵衛士となった篠原泰之進です。

幕末明治維新で非業の死を遂げた新選組隊士が多い中、篠原泰之進は明治まで生き残りました。篠原泰之進は、あまり有名ではありませんが、油小路の変を語る際、忘れてはならない人物です。

油小路の変では、伊東甲子太郎を中心に事件が描かれやすく、篠原泰之進の目線で物語が進む作品は珍しいですね。

芹沢鴨の暗殺

主な登場人物

あらすじ

29歳の土方歳三は、天然理心流道場の近藤勇たちと浪士組に応募し江戸を発ちました。

浪士組は、剣の達人やならず者など様々な素性の者たちで構成され、将軍上洛に合わせて京へ向かいます。その途中、近藤勇は、水戸の天狗党の出である芹沢鴨の宿所を取ることを失念しました。怒った芹沢鴨は、宿場が火事になろうかというほどの焚火をして浪士組の面々を冷や冷やさせます。

京に到着した浪士組に責任者である清川八郎が江戸へ引き返すと言いだしました。これに反対した天然理心流道場の一門と芹沢鴨一派は京に残留。そして、新選組を結成しました。

新選組結成後も芹沢鴨は、傍若無人に振る舞い、力士との喧嘩、商家へのゆすりなど問題行動を次々に起こします。これを見かねた会津藩は、密かに近藤勇と土方歳三に芹沢鴨を処分するよう命じるのでした。

読後の感想

新選組結成後最初の内部闘争を描いた作品です。

筆頭局長であった芹沢鴨は乱暴者で知られており、京都の治安を守るのに相応しくない人物でした。その芹沢鴨をどうにかして排除しようと考えていたのが、副長の土方歳三でした。

芹沢鴨一派を正面から斬ることはできるものの、そうすると、こちらにも被害が出ます。一人の犠牲者も出さずに芹沢一派を斬るにはどうすれば良いのか。土方歳三と近藤勇の緻密な計画が読みどころです。

長州の間者

主な登場人物

あらすじ

京都浪人深町新作は、小間物屋の娘おそのと恋仲になり、その姉小善から長州藩への奉公の話を勧められます。

それから1ヶ月後、深町新作は木屋町三条上ルの丹虎で、長州藩士の吉田稔麿と会いました。吉田稔麿は、深町新作に新選組に長州の間者として入隊し、内部の情報を報告してくれれば長州藩士として取り立てることを約束します。

新選組の入隊に成功した深町新作は、十番隊に配属され身分を隠しながら隊務に就くのでした。

読後の感想

長州藩は、新選組にスパイを送り込み内部事情を探っていたことは有名な話です。しかし、多くのスパイたちは身分を隠しきれず、土方歳三によって処刑されました。

本編の主人公深町新作も、長州のスパイとして新選組に入隊します。深町新作は身分を隠しきることができるのか、読み進むごとに緊張感が高まります。

池田屋異聞

主な登場人物

あらすじ

鍼屋の子として産まれた山崎蒸は、大坂の鏡心明智流の道場で剣術を学びました。

山崎蒸は強かったのですが、荒々しい剣術だったため師匠は中伝までしか与えませんでした。

ある日、山崎蒸は船で酒を飲んでいる時、数人の武士と喧嘩になります。その武士の中には、道場の師匠と面識のある大高忠兵衛もいました。大高忠兵衛は、長州の尊王攘夷派の志士たちと交わりがあり、やがて新選組に入隊した山崎蒸と因縁の対決をするのでした。

読後の感想

新選組で監察として働いた山崎蒸を主人公にした作品です。

山崎蒸は、池田屋事件の際、商人に変装して池田屋に潜入し、戸の鍵を開けて新選組の討ち入りを成功させたことで知られています。本作でも、池田屋事件が中心に描かれていますが、大高忠兵衛との先祖から続く因縁の対決からも目が離せません。

鴨川銭取橋

主な登場人物

あらすじ

新選組五番隊隊士の狛野千蔵が斬られました。

監察の山崎蒸は、五番隊隊長の武田観柳斎に狛野の死を報せ、外出届が出されていたかを訊ねます。しかし、武田は、「存ぜぬ」と言うだけ。

狛野の死は、副長の土方歳三の耳にも入り、山崎蒸は狛野を斬ったのは誰かを探るように命じられます。下手人探しを始めた山崎蒸は、ある料亭で武田と薩摩藩士が会っていたことを突き止め、狛野殺害に武田が関わっているのではないかと疑うのでした。

読後の感想

新選組五番隊隊長の武田観柳斎は、隊の中で長沼流軍学を指導していました。彼は、近藤勇や土方歳三にすり寄り、出世していきましたが、隊士からは嫌われていました。

しかし、幕府がフランス式の調練を採用したことから、武田観柳斎の長沼流軍学は、隊内で廃れていきました。そんな時に五番隊隊士の狛野千蔵が斬られる事件が起こります。

隊内での評判が悪くなった武田観柳斎は、隊から抜け出せるのか。そして、土方歳三は、武田観柳斎が新選組を裏切った証拠を見つけ出せるのか。事件を捜査する山崎蒸と土方歳三の会話に注目です。

虎徹

主な登場人物

あらすじ

文久3年(1863年)の正月に相模屋伊助の店に一人の武士が入ってきました。その武士の名は近藤勇。近藤は、浪士組に加入し、近々、上洛する予定だったため、刀を新調するつもりでした。

伊助がどのような刀を探しているかを訊ねると、近藤は虎徹を二十両で買いたいと言いました。虎徹を高々二十両で買おうとする近藤を伊助は田舎者だと思い、源清麿を虎徹と偽り用意しました。

上洛した近藤勇は、浪士組を脱退し新選組を結成します。ある夜、近藤は隊士とともに夜の見回りをしていると、鴻池から攘夷御用金という名で金を奪った浪士たちと遭遇します。

斬りかかってきた浪士の一人を近藤は、見事に斬り捨て、虎徹だと思っている源清麿の切れ味に感嘆するのでした。

読後の感想

新選組局長の近藤勇は、名刀虎徹を愛用していたと言われています。その虎徹を手に入れた近藤勇を主役にしたのが本作です。

剣の達人であった近藤勇は、虎徹ではなくとも、見事な刀さばきで浪士たちを斬り伏せていきます。刀の切れ味は、その刀を持つ者の腕に左右される面があるでしょうが、持っている刀が名刀だと思い込んでいると、さらにその切れ味が増すのでしょうか。

偽物の虎徹を本物だと信じている近藤勇に滑稽さを感じますが、それが生一本な近藤勇の魅力を引き出しています。

前髪の惣三郎

主な登場人物

あらすじ

新選組隊士の募集に剣の腕の立つ2人が応募してきました。1人は、18歳の加納惣三郎、もう1人は30歳ほどの田代彪蔵です。

加納は、女性のような美しい容姿をしており、局長の近藤勇の小姓となりました。一方の田代は、沖田総司の一番隊に配属されました。

美貌の加納は、隊士の中でも評判となり、やがて田代やその他の隊士から言い寄られるようになります。

ある日、新選組隊士が斬られる事件が起こりました。下手人は薩摩でも土佐でもなく、いったい誰にやられたのかわかりません。それから幾日が過ぎ、今度は隊士の山崎蒸が襲われるのでした。

読後の感想

新選組内の恋の話です。恋と言っても男女の恋愛ではなく、男同士の恋の話です。

数ある新選組を描いた作品の中で本作は異色です。隊士たちの恋の行方はいかに。

胡沙笛を吹く武士

主な登場人物

あらすじ

紅葉の長楽寺に参詣後、小つるは、一人の武士と出会います。その武士は、奥州南部に伝わる胡沙笛を吹く鹿内薫でした。

鹿内薫は、南部藩出身の新選組隊士で、文久3年(1863年)の禁門の政変で京都を追放された長州藩の残党の隠れ家をつきとめる手柄を立てました。

やがて、鹿内は小つると所帯を持ち、新選組でも助勤に出世し、公私ともに充実した日々を送ります。

元治元年(1864年)6月。新選組は長州系浪士が隠れ家とする池田屋を捜索することを決定しました。鹿内薫も隊士2人とともに現場へと向かいましたが、その途中、酔った薩摩藩士たちと出くわすのでした。

読後の感想

鹿内薫を主人公とした作品です。

新選組の中でも、剛胆な性格の鹿内でしたが、小つると出会って次第に臆病になっていきます。家庭を持った新選組隊士の悲劇の物語。

三条磧乱刃

主な登場人物

あらすじ

芸州浪人国枝大二郎は、新選組に入隊して間もない頃、屯所の西本願寺で一人の老人と出会いました。国枝がただの老人と思って話をしていたその老人は、新選組の六番隊を指揮する井上源三郎で年齢は四十過ぎ。やがて、国枝は六番隊に配属され、井上の下で働くことになりました。

ある日、国枝は、道場で井上と剣の修練をしていたところ、その様子を外から窺っていた浪士2人が、高声で嘲笑しました。

この出来事が副長の土方歳三の耳に入り、井上と国枝は、2人の浪士が何者かを探索するのでした。

読後の感想

六番隊隊長の井上源三郎を主人公にした作品です。

井上源三郎は、近藤勇や土方歳三と同じ天然理心流道場で剣の修行をしていました。年齢は、近藤や土方よりも一回りほど上でしたが、剣の腕はそれほどでもありませんでした。

新選組には似合わない井上は、ある日、国枝大二郎と剣の修練をしているところを2人の浪士に見られて笑われます。これは、新選組の威信にかかわることですから、2人の浪士の正体を突き止める必要があります。その任務に就いたのが、井上と国枝だったのですが、事態は当初想定していた以上に大きなものになりました。

海仙寺党異聞

主な登場人物

あらすじ

新選組一番隊伍長で甲州浪人の中倉主膳が、ある日、背中に刀傷を負って屯所に戻ってきました。

怪我は、情婦のお小夜宅で押し入れに隠れていた男に斬られたのが原因です。不覚を取った中倉は斬首が決まり、同じ甲州出身の長坂小十郎が刀を持つことになりました。

中倉は、同郷の長坂に斬られることに多少の喜びを感じ、斬刑の前に京にはもう一人甲州出身の利助という者がいることを伝えました。

読後の感想

長坂小十郎が、同郷の中倉主膳の敵討ちをする作品です。長坂は、新選組で会計方を担当していたので剣を取って浪士たちと闘うことはありませんでした。

その長坂が、副長の土方歳三の命で中倉主膳の敵討ちをすることになります。一体誰が中倉を斬ったのか。そして、長坂は中倉の仇を討つことができるのか。彼を取り巻く人間関係にも注目です。

沖田総司の恋

主な登場人物

あらすじ

土方歳三が、沖田総司が妙な咳をするのに気づいたのは元治元年(1864年)3月頃。そのことを近藤勇に話したものの、特に気にとめることはありませんでした。

それから約3か月後。新選組は池田屋に斬り込みます。斬込部隊の中には沖田総司もおり、長州系浪士たちと闘っていましたが、急に咳き込み血を吐き出しました。

池田屋事件の後、新選組隊士たちは手当てを受けます。その後、会津藩公用人外山機兵衛が近藤勇に沖田総司が労咳である可能性を告げ、ある医者を紹介しました。

沖田は、その医者に通うことになり、そこで一人の娘と出会うのでした。

読後の感想

沖田総司の恋の話です。

21歳の沖田総司は、池田屋事件で喀血します。この時代、労咳(結核)は死の病とされており、沖田総司の喀血も労咳が原因なら、そう長くは生きられません。

通院を始めた沖田総司は、そこで一人の娘と出会います。まだ若いのに死の病に侵された沖田総司の恋の行方は・・・。

槍は宝蔵院流

主な登場人物

あらすじ

文久3年(1863年)4月。斎藤一は、近藤勇から槍の使い手谷三十郎が入隊することを伝えられました。

ある日、斎藤が三十石船に乗船していると、3人の浪人が乗ってきました。その中の槍を持っている浪人は、横柄な態度で船頭に船の席を広げるように命令します。

この浪人が谷三十郎でした。

谷は入隊後すぐに槍の腕を認められ助勤となりました。さらに倅の喬太郎を近藤勇の養子とします。

近藤勇と縁戚となった谷は、これまで以上に得意となり、隊士の中には彼に取り入ろうとする者もいました。

しかし、近藤勇の養子にし名を近藤周平と改めた喬太郎が、池田屋事件で不甲斐なかったことから、谷の人気は次第に落ち始めたのでした。

読後の感想

斎藤一と谷三十郎の確執を描いた作品です。

出世欲の強い谷は、槍の腕も確かだったことから、新選組の中で助勤まで出世し、さらに倅を近藤勇の養子としたことで発言力を強めようとしました。現代で言うと、社長に取り入るのが上手いサラリーマンといったところでしょうか。

一方の斎藤一は、剣の実力は隊の中でもかなり上でしたが、出世には興味を示しません。

性格が相反する2人の新選組内での活躍。谷の斎藤に対する一方的なライバル視。両者の関係がどうなっていくのかが興味深い作品です。

弥兵衛奮迅

主な登場人物

あらすじ

薩摩藩士富山弥兵衛は、芸州藩士を私闘で斬りました。

その現場に出くわした伊東甲子太郎は、富山の腕と薩摩藩士であることを魅力に感じ、新選組への入隊をすすめました。

事件を起こし藩に帰れなくなった富山は伊東の誘いを受け、また、伊東は薩摩藩邸に出向き、その旨を伝えました。

新選組に入った富山は、持ち前の明るい性格からすぐに隊で人気者となり、近藤勇や土方歳三にも気に入られました。

しかし、ある日、富山は土方に薩摩藩の間者ではないかと疑われるのでした。

読後の感想

新選組に入隊した薩摩藩士富山弥兵衛を主人公にした作品です。

薩摩藩士で新選組に入隊したのは富山くらいのものです。後々、新選組の乗っ取りを企てる伊東甲子太郎が薩摩藩との窓口を作っておきたかった思惑が富山を入隊させることになりました。

富山は、最終的に薩摩藩に復帰します。彼は本当に薩摩藩の間者だったのでしょうか。

四斤山砲

主な登場人物

あらすじ

慶応2年(1866年)の正月半ば。新選組の永倉新八を訪ねて大林兵庫がやって来ました。

永倉は、その名を記憶してませんでしたが、神道無念流道場時代の兄弟子だと大林が言ったため、新選組入隊を近藤勇と土方歳三に持ちかけました。

近藤は、大林が洋式調練に明るいことを知り、すぐに入隊を決めます。すでに新選組では、阿部十郎が砲術師範頭となり、会津藩の林権助から砲術を習っていましたが、大林も砲術師範頭になりました。

阿部は、素性の怪しい大林が高く評価される新選組に嫌気がさし、伊東甲子太郎とともに脱退するのでした。

読後の感想

新選組の砲術師範頭であった阿部十郎を主人公にした作品です。阿部は、伊東甲子太郎とともに新選組を脱退しましたが、その理由はよくわかりません。

本作では、大林兵庫を登場させ、阿部が新選組を脱退するまでの経緯を描いています。

菊一文字

主な登場人物

あらすじ

ある日、沖田総司は、刀屋播磨屋道伯を訪ねます。播磨屋には、刀を研ぎに出していましたが、まだ仕上がっていませんでした。

道伯は、沖田に名刀菊一文字を見せ、代わりの刀として貸すことにしました。

その帰り道、沖田は陸援隊の戸沢鷲郎に因縁を付けられます。沖田は、借りた菊一文字を使うことをためらい、その場から立ち去りました。

それから数日後、新選組隊士が戸沢に斬られる事件が起こりました。

読後の感想

沖田総司は、菊一文字を愛刀としていたと伝えられています。本作は、その菊一文字を題材にした作品です。

剣の達人沖田総司が、因縁を付けてきた戸沢鷲郎から逃げました。これが戸沢を得意にさせ、後日、新選組隊士が戸沢によって斬られます。

沖田総司が、なぜ菊一文字を抜くのをためらったのかが本作の読みどころです。

新選組血風録-司馬遼太郎
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