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夏草の賦(下)

織田との全面戦争を決意した元親は、阿波に侵攻し、三好勢を破ります。本能寺の変で織田信長が急死し、侵略の危機を脱したものの、次は羽柴秀吉との戦いが迫ります。家臣のために戦う決意をした元親。しかし、家臣たちは、羽柴勢との戦いを望みませんでした。

主な登場人物

あらすじ

織田信長に伐り取った四国の領地を手放し土佐に戻ることを要求された長宗我部元親は、これを拒否し、織田と一戦交える決意をしました。

長宗我部征伐を決定した織田信長は、三好笑巌を阿波に派遣します。ところが、その直後、明智光秀が本能寺で織田信長を討ち取ったため織田との全面戦争は回避されました。

阿波から撤退した三好笑巌は、山崎の戦で明智光秀を討った羽柴秀吉(豊臣秀吉)に近づき、長宗我部征伐を懇願します。しかし、羽柴秀吉も、織田家中の戦いから手が離せなかったため、三好笑巌の願いを聞き入れることができません。

元親は、羽柴秀吉に対して何の手も打ちません。しかし、嫡子の信親は阿波に残った三好勢と戦うことを進言し、長宗我部勢は阿波に侵攻しました。

そして、大雨による洪水で、多くの犠牲を払ったものの、長宗我部勢は阿波を攻略します。

時が過ぎ、羽柴秀吉は織田政権の相続者たる地位を確固なものとします。天下統一を目指す羽柴秀吉は、ついに長宗我部征伐に動き出しました。

一領具足の貧相な装備では、羽柴勢に太刀打ちできないと知った家臣たちは、羽柴からの降伏勧告を元親に伝えます。これまで、家臣の生活のために戦ってきた元親でしたが、家臣たちが戦を続けることに否定的であることを知り、我が意を曲げ、羽柴に降る決意をするのでした。

読後の感想

夏草の賦の最終巻です。

四国の覇者となった長宗我部元親は、織田信長とも親交を結び領土の保全を図ってきました。しかし、織田信長は、これまでの長宗我部との親交を捨て、四国へ侵攻することを決めます。

土佐一国に退けば、長宗我部征伐を行うつもりはない織田信長でしたが、領土拡張によって多くの家臣を抱えた元親にとって、領土の縮小は家臣たちの生活を保障できなくなるため容認できません。

織田との戦いを決意して間もなく、本能寺の変が起こりました。織田信長の使者として元親の元に派遣されたのが、明智光秀の家臣の石谷光政であったことから、元親と明智光秀の間で何か密約があったのではないかと考えてしまいます。

偶然にしては、本能寺の変は元親にとって都合がよすぎるので、そう考える人がいても不思議ではありません。

織田の脅威は過ぎ去ったものの、結局、元親は羽柴秀吉の軍門に降ることになります。多くの犠牲を払って四国全土を掌中に収めたのにまた元の土佐一国だけになった元親は、大いに悲嘆したことでしょう。自分の人生はいったい何だったのか。何のために戦ってきたのか。悔しさと悲しみが同時に湧き上がってきたに違いありません。

元親の戦いは、これで終わったかに見えましたが、豊臣秀吉の天下統一はまだ終わっていません。九州の島津征伐を命じられた元親は、意に反して戦を強いられます。この時の戦いは、元親の心を疲弊させます。長宗我部の滅亡は、この時から始まっていたのかもしれません。

夏草の賦(下)-司馬遼太郎
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