人斬り以蔵
幕末、京都で人斬りと恐れられた岡田以蔵の生涯を描いた「人斬り以蔵」、上野の戦いで彰義隊を殲滅した大村益次郎を描いた「鬼謀の人」、大坂の陣で活躍した塙団右衛門を描いた「言い触らし団右衛門」など、短編8作品を収録しています。 |
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収録作品
鬼謀の人
主な登場人物
あらすじ
安政6年(1859年)。長州藩の桂小五郎は蘭語を読める人物を探していました。そして、自藩に蘭学に精通した村田蔵六(のちの大村益次郎)がいることを知りましたが、多忙のためその名だけを記憶し捨てていました。
この年、吉田松陰が幕府によって処刑され、桂はその死体を引き取りに出かけます。その帰り、彼は女囚の死体を解剖する益次郎と出会います。この時の出会いが益次郎の運命を大きく変えました。
時は過ぎて慶応4年(1867年)。益次郎は江戸に向かい、その天才的頭脳を使って彰義隊壊滅の作戦を練るのでした。
読後の感想
幕末の長州藩士大村益次郎を描いた作品です。益次郎は天才的な頭脳を持っていながら、人の感情が理解できない変わり者でした。
彼の練る作戦はどれも成功し、誰もがその能力を認めていました。しかし、人の感情が理解できない益次郎は身内に多くの敵を作ってしまいます。
益次郎の唯一の理解者は桂小五郎だけだったと言ってもいいでしょう。もしも、もっと多くの理解者がいれば彼はさらに多くの功績を残していたかもしれません。
人斬り以蔵
主な登場人物
あらすじ
土佐藩の足軽の子として生まれた岡田以蔵は、並々ならぬ肉体を持っていました。以蔵は子供の頃から独学で剣の修業をし、ある時、武市半平太の道場を訪れました。
弟子入りを志願する以蔵の剣の才能を見抜いた武市は、それを認め、さらに江戸への剣術留学に連れて行きました。
やがて時代は、勤王と佐幕の対立が強まり武市半平太は土佐勤王党を結成し、以蔵も参加します。武市の政敵を陰で抹殺する以蔵。しかし、武市はそんな以蔵を蔑視するようになるのでした。
読後の感想
幕末に人斬りと恐れられた岡田以蔵を主人公にした作品です。
足軽の子として生まれた以蔵は剣の才能を持っていましたが、その荒々しい動きを武市は好きになれません。完璧主義の武市にとって以蔵はどこか気に障る存在だったのでしょう。しかし、以蔵は武市を慕い、武市の役に立とうと自分なりに努力をします。
ところが、気に入られようとすればするほど武市に嫌われていきます。武市の気持ちがわからない以蔵。以蔵の気持ちがわからない武市。二人の悲劇は、これが理由で起こったのかもしれません。
割って、城を
主な登場人物
あらすじ
善十こと鎌田刑部左衛門のもとには、大名からの誘いが過去に2度ありましたが、いずれも断りました。3度目の訪客も同じ用向きでしたが、善十は承諾します。
善十を雇ったのは、わずか1万石ほどの小大名であった古田織部正重然(ふるたおりべのしょうしげよし)です。
茶人であった織部は、その才能が豊臣秀吉に認められ大名に出世、徳川幕府ができてからもなお栄えていました。
織部が善十を雇ったのは、彼が持つ茶碗に目をつけたから。しかし、織部の狙いはもうひとつあり、善十の運命を変えることになるのでした。
読後の感想
茶人の古田織部を題材にした作品です。主人公は鎌田刑部左衛門。
戦国時代は、腕力が強い者が出世する世でしたが、織部は茶道の腕でのし上がっていきました。茶道で出世するにしても、智恵がなければ困難です。だから、織部は大名の中でも頭が良く、そして並みの大名よりも強い警戒心を持っていました。
織部が武道に秀でた刑部左衛門を家臣にした理由は、最後の最後でわかります。
おお、大砲
主な登場人物
あらすじ
和州高取の植村藩には、大坂城攻めで使ったブリキトースという大砲6門が代々受け継がれてきました。
同藩の中書家の次男であった新次郎は、幼い時に笠塚半兵衛にブリキトースを見せられます。それから月日が経ち、新次郎は大坂の緒方洪庵塾で学問を習い始めました。
しかし、ある日、ひょんなことから国元に呼び戻され笠塚家の養子となります。新次郎が笠塚家に入ってすぐに天誅組の変が勃発。ブリキトースの操作を覚えた新次郎は、高取城に迫る天誅組と戦いました。
時代は明治となり、新次郎は天誅組にいた平山玄覚坊と再会し、天誅組の変で自分が撃った大砲の砲弾について真実を知るのでした。
読後の感想
幕末の天誅組の変を題材にした作品です。
植村藩の笠塚新次郎は、高取城に攻めてくる天誅組を藩に代々伝わるブリキトースを操作し撃退します。
この作品では、260年以上続いた幕藩体制が人も技術も、ありとあらゆるものの進化を妨げてきたことが滑稽に描かれています。
言い触らし団右衛門
主な登場人物
あらすじ
長命寺の住持観海から名をもらった塙団右衛門(ばんだんえもん/塙直之)は、加藤嘉明に無禄無役で仕えましたが、翌日に加藤家を去ることにしました。
団右衛門は、加藤家に仕官する気はなく、加藤家牢人の肩書が欲しかったのです。それから、団右衛門の名を売る人生が始まりました。
慶長19年(1614年)7月。団右衛門は、大坂城に入城します。そして、大坂夏の陣で、自分の名を売る大きな働きをするのでした。
読後の感想
大坂の陣で活躍した塙団右衛門を主人公にした作品です。
戦国時代は、誰もが出世を望んで戦に明け暮れていました。出世するためには武功を立てなければなりませんが、それが広く人に知られなければ意味がありません。
団右衛門は、自分の名を言い触らす名人だったと言えます。
もしも、大坂の陣で彼が豊臣家に味方しなければ、後世に名を残すことはできなかったでしょう。
大夫殿坂
主な登場人物
あらすじ
作州津山藩の大坂蔵屋敷では、兄庸蔵の死の理由を知ろうとする井沢斧八郎がいました。
調査をするうちに腐敗した蔵役人の実体に気づく斧八郎。14代将軍徳川家茂の大坂入りにより、江戸から市中取り締まりのために流れてきた無頼漢につけ狙われながらも、斧八郎はついに兄の死の原因を突き止めるのでした。
読後の感想
幕末の仇討を題材とした作品です。
京都では天誅騒ぎが毎日のように起こっていましたが、その影響は隣の大坂にも及んでいました。歴史の大きな流れの隅で犠牲になった人は何人もいたことでしょう。
大夫殿坂は、兄庸蔵の仇討をする井沢斧八郎が主役ですが、彼もまた歴史の大きな流れの隅で事件に巻き込まれた一人と言えます。
美濃浪人
主な登場人物
あらすじ
美濃不破郡赤坂のつくり酒屋の家に生まれた所郁太郎(ところいくたろう)は、他家に2度養子となり、3軒の家系を暗誦させられました。
医師となった郁太郎は、2年の期限で学問のために京へ上ります。京では梁川星巌(やながわせいがん)と出会い、郁太郎は志士として目覚め始めました。
その後、大坂の適塾に入塾し、文久2年(1862年)5月に再び京に上った郁太郎は、町医を開業します。ある日、島原の鍵屋に登楼した郁太郎は、そこで食中毒で苦しむ長州藩士の井上聞多(井上馨)と運命的な出会いを果たすのでした。
読後の感想
幕末の志士所郁太郎を主人公に描いた作品です。
所郁太郎は、無名の志士ですが彼がいなければ、明治政府の財政を担当した井上馨の運命は変わっていたことでしょう。
郁太郎の志士活動の経歴は古いものでしたが、目立つような働きはありませんでした。しかし、京都で梁川星巌と出会ったことで、後に郁太郎の存在に箔をつけることになります。その箔がなければ、郁太郎は無名の町医者として歴史の片隅に埋もれていたかもしれません。
売ろう物語
主な登場人物
あらすじ
慶長11年(1606年)の初夏。筑前福岡五十二万国の城下に3人の供を連れた商人がやってきました。
商人は、幼馴染の後藤又兵衛をたよって鉄砲などの注文を取りに来たのですが、後藤家はそれどころではなく、又兵衛が主君の黒田長政と不仲になって藩を去る事件が発生していました。
又兵衛は細川家を頼った後、広島へと向かい、そこで福島正則から3万石で仕えないかと言われます。幼馴染の商人は、又兵衛に先方の提示した値で手を打つように助言をしました。しかし、又兵衛は福島家からの提示を断り、長い牢人生活を送るのでした。
読後の感想
大坂の陣で、豊臣家について活躍した後藤又兵衛を描いた作品です。
この作品では、後藤又兵衛が大坂城に入城するまでの牢人生活が主題となっています。どんなに貧しい生活をしようと一度は万石を領した武将の意地と幼馴染の商人の損得勘定。読者は、自分ならどっちを選ぶだろうかと考えさせられるはずです。
人斬り以蔵-司馬遼太郎 |
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