坂の上の雲(8)
対馬海峡に現れたバルチック艦隊。日本の連合艦隊は、敵前でUターンを開始。旗艦三笠は、多くの砲弾を受けます。しかし、敵前回頭を終えた連合艦隊は、一斉射撃によりバルチック艦隊の旗艦スワロフの戦闘能力を奪うのでした。 |
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主な登場人物
あらすじ
明治38年(1905年)5月26日。ロシアのバルチック艦隊がついに日本近海に姿を現します。そして、翌27日、日本の連合艦隊は、対馬海峡でバルチック艦隊と遭遇しました。
二列渋滞で北進するバルチック艦隊に対し、西に進んでいた連合艦隊は、旗艦三笠の東郷平八郎の指示によりUターンし、東へと進路変更しました。バルチック艦隊の旗艦スワロフのロジェストウェンスキーは、Uターン中で砲撃できない連合艦隊に一斉射撃を指示。
多数の砲弾に撃たれながらも三笠はUターンを完了。続く戦艦も次々にUターンを完了し、バルチック艦隊に砲撃を開始しました。連合艦隊の命中精度は高く、旗艦スワロフ以下バルチック艦隊の戦艦を火炎に包んでいきます。
被弾甚だしいスワロフは戦闘能力を喪失。しかし、操縦不能となったスワロフの無意識の進路変更が、東郷平八郎と秋山真之の判断を狂わせるのでした。
読後の感想
坂の上の雲の最終巻です。
日露戦争での勝利を決定づけた日本海海戦を中心に描かれています。
日本が勝利する条件として、バルチック艦隊を全滅させるしかなかった日本の連合艦隊は、その目的を果たすことができました。
日本海海戦の勝因としてまず考えらえれるのは、バルチック艦隊の乗員の厭戦気分です。バルト海からアフリカを回り、やっと対馬までやってきたところで海戦が始まったのですから、乗員の疲労は甚だしかったでしょう。また、ロシア皇帝がバルチック艦隊に旧式戦艦で編成した第三戦艦隊を応援に向かわせたことも日本海軍の勝利の一因と言えます。新式戦艦と旧式戦艦では、性能が違うので、旧式戦艦は新式戦艦の足手まといになるだけです。
次に下瀬火薬と伊集院信管の威力です。連合艦隊の戦艦は、敵艦の戦闘能力を封じることを目的としており、敵艦を沈めることには力を入れていませんでした。下瀬火薬は、爆発力が凄まじく、着弾すると焼夷弾のように火災を発生させます。そのため、艦上は着弾すると火炎に包まれ、応戦不可能となります。徹甲弾は、敵艦に穴を空けて沈没させることを目的とし、戦艦の装甲を突き破るように設計されています。それに対して、日本の砲弾は艦上で爆発させるために伊集院信管を採用し、下瀬火薬の爆発力を大いに発揮させることが可能となっていました。
さらに連合艦隊は、秋山真之が考えた七段構えの戦法やT字戦法によりバルチック艦隊を撃破することに成功しています。真之は、7段階でバルチック艦隊を全滅させる作戦を立てていました。日本海海戦では、7段階までいかずにバルチック艦隊の全滅に成功しています。また、T字戦法は、縦隊で航行してくる敵艦隊の先頭に対して、連合艦隊が横に航行することで、複数の味方戦艦が先頭の敵艦に向かって砲撃するものでした。旗艦スワロフは、このT字戦法と下瀬火薬の威力によりあっという間に海に浮かぶ鉄くずと化したのです。
最後に連合艦隊の砲撃の巧みさにも触れておきましょう。バルチック艦隊は、砲撃手が各々に目標に向かって砲撃していましたが、連合艦隊は、1人の指令により複数の大砲が同じ距離を定めて一斉射撃するようになっていました。この方法は、大砲の命中精度を高め、敵艦と比較にならないほど多くの砲弾を命中させることができました。
坂の上の雲を読むと、日露戦争は、日本が勝てる見込みのなかった戦争だとわかります。日本が勝てたのは、帝政ロシアの腐敗とロシア革命の機運が高まっていたことが大きな理由です。日本側の努力だけで勝てたのではありません。しかし、日露戦争後の日本は、勝利に酔いしれ、やがて第2次世界大戦で大きな過ちを犯すことになります。
本作は、司馬遼太郎さんが、40代のほぼすべての時間を費やして書き上げた作品です。古書を買い求めたり、戦争体験者の話を聞いたり、何年もかけて調べてから執筆を始めたそうです。陸戦と海戦の両軍の位置関係など、細かいところまで描写されているのは、長い年月をかけて下準備をしたからこそできたことなのでしょう。
坂の上の雲は、史実ではないところがあると批判されることがあります。しかし、それらは重箱の隅をつつくようなものが目立ちます。当時の日本の事情とロシアの事情を調べ上げ、頭の中で組み合わせていく作業は並大抵のものではなかったはずです。日露戦争の大局を掴むだけでも、1人の頭脳では非常に困難なことだったでしょう。その大局を掴みえたからこそ、物語の中で登場人物の性格と行動を描くことができたのだと思います。
坂の上の雲(8)-司馬遼太郎 |
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