HOME > 作家別 > 司馬遼太郎 > 坂の上の雲(6)

 

坂の上の雲(6)

秋山支隊が守る黒溝台が手薄であることに気づいたロシア軍は、大軍を向かわせます。これに気づいた好古は、日本軍総司令部にロシア軍が大規模な行動をおこす予兆があることを伝えました。しかし、総司令部は好古の報告を無視し、日本軍は窮地に陥るのでした。

主な登場人物

あらすじ

ロシア軍が大規模な作戦をおこす予兆を察知した秋山好古は、日本軍総司令部に対してその報告をします。しかし、総司令部は、ロシア軍が冬季に大作戦をおこさないとの固定観念から、騎兵報告を黙殺しました。

総司令部が気づくまで黒溝台を守ることを決意した好古は、10万以上のロシア軍相手に奮戦することになります。

ロシアの大軍が黒溝台に迫っているのに気付いた総司令部は、立見尚文の第八師団に出動を命じます。秋山支隊を攻撃目標としていたロシア軍は、その目標を第八師団に移し、日本軍の左翼を崩そうとし始めました。

秋山支隊と第八師団がロシアの大軍に取り囲まれていることにようやく気付いた総司令部は、黒木軍の第二師団の一部を黒溝台の救援に向かわせます。

その後も、ロシア軍の猛攻が続き、秋山支隊と第八師団は苦戦を強いられましたが、突如、ロシア軍が退却を開始しました。総司令部が左翼に援軍を送る際、ロシア軍中央への擬装攻撃をしたことが運良く奏功したのです。

その頃、ロシアのバルチック艦隊は、マダガスカル島のノシベで停泊していました。本国からの明確な指示がないまま時間だけが過ぎ去っていくことに乗組員たちの苛立ちと不安は大きくなっていくのでした。

読後の感想

第6巻では、秋山好古の騎兵が窮地に追い込まれます。

ロシア軍は、秋山支隊が守る日本軍の左翼が手薄であることに気づき大軍を送り込みます。一方、日本軍は、好古から再三に渡りロシアが大作戦を起こす予兆があるとの報告を受けますが黙殺していました。この時の日本軍総司令部の油断は、日露戦争の敗北につながるほど重大なものでした。

結果的にロシアの退却により、日本軍は左翼を守り切ることができました。日本軍がロシア軍よりも優れていたわけではありません。単にロシア軍の官僚化が、外の敵ではなく内の政敵との駆け引きを優先させ、日本を救ったのです。

また、第6巻では、明石元二郎の諜報活動についても多くのページを割いています。日露戦争は、ロシア革命前夜の出来事であり、日本軍の強さにロシアが負けたのではないことが、明石元二郎の諜報活動から読み取れます。しかし、日露戦争後の日本は、ロシア側の敗北の原因を詳しく調べようとせず、日本軍がロシア軍よりも強かったのだと思い込み、それが第2次世界大戦での敗北につながっていきました。

ロシア軍の官僚化は、バルチック艦隊でも起こっていました。艦隊を率いるロジェストウェンスキーは、ロシア皇帝の命令に従い、ロシア国内での自らの地位を保全することを優先していました。乗組員の士気を高めることには力を入れず、ただ、強権を振るうだけ。

日露戦争は、ロシアの自滅により日本が勝利できました。しかし、武器や兵力で劣る日本が勝てたのは、兵士の精神力だと誤解しました。やがて、武器や戦力の差を大和魂で埋め合わせることが可能だとの思い込みが、陸軍を中心に浸透していくことになります。

坂の上の雲(6)-司馬遼太郎
取扱店(広告)