賊将
日本で最初の陸軍少将となった桐野利秋を描いた表題作「賊将」の他、戦国時代の幕開けとなった戦乱を描いた「応仁の乱」、日露戦争で第三軍を指揮した乃木希典を主人公にした「将軍」など短編6作品を収録。 |
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収録作品
応仁の乱
主な登場人物
あらすじ
室町幕府8代将軍となる足利義政は、6歳の時に屋敷の池に落ち、庭師の善阿弥に助けられます。これが、義政と善阿弥の出会いでした。
義政が征夷大将軍となったのは、宝徳元年(1449年)4月で、まだ14歳でした。
義政が将軍となった後、応仁の乱の原因となったのが、子の義尚と弟の義視(よしみ)との将軍継嗣の争いです。義尚には山名持豊(山名宗全)、義視には細川勝元がそれぞれ後ろ盾となり、都では、近々、両者が惨烈な戦争を引き起こすに違いないという風説が充満していました。
義尚と義視の後継争い。自らの財力を肥らせようとする日野富子。遂に始まった応仁の乱で善阿弥が手掛けた西芳寺も焼失しますが、そこに義政と善阿弥は希望を見出すのでした。
読後の感想
短編にしては長い作品で150ページほどあります。
政治的に無能な足利義政が将軍となったことで、様々な争いが起こり、それがやがて応仁の乱へと発展します。この辺りは、人間関係が複雑なので、理解しにくいのですが、短編ということもあり、比較的すっきりとまとめられていて、読みやすくなっています。
また、庭師の善阿弥が登場することで、血なまぐさい政争の中に、ところどころ文化的な色彩が混ざるのも、この作品の特徴です。
刺客
主な登場人物
あらすじ
信州松代藩の横目をつとめている児玉虎之助が、ある日、執政の原八郎五郎の屋敷に呼ばれ、「人ひとり、斬ってもらいたい」と言われます。
斬る相手は、恩田木工(おんだもく)が江戸藩邸に密使として遣わした平山重六です。
原八郎五郎は、藩主の真田信安の寵愛を受け、とんとん拍子で出世し千二百石の家老をつとめていますが、それに不満を持つ勢力が出てきました。それは家老職の恩田木工を中心とする勢力です。
原の命を受けた児玉虎之助は、井沢太平と壺井運八郎と共に馬を飛ばして城下の東南にある地蔵峠の山麓へ向かいました。
恩田木工の密使平山重六に追いついた虎之助たちは、彼を斬り、持っていた密書を奪い取り、その内容を見ます。そこに書かれていたのは、虎之助にとって信じられないことでした。
読後の感想
原八郎五郎の命を受け、恩田木工の密使を斬りに行った児玉虎之助がなぜ・・・。
短編ですが、現在の行動と過去の回想が繰り返されながら、物語が進んでいくので、意外と読み応えがあります。
黒雲峠
主な登場人物
あらすじ
築井家に仕える玉井平太夫は、藩主の築井土岐守(つくいときのかみ)やその奥方に気に入られ、とんとん拍子に出世し五百五十石の奥用人にまでのし上がりましたが、ある日、馬廻役の鳥居文之進に討たれました。
慢心した玉井平太夫が賄賂をもらったり吉原で遊興しているのを見て、たまりかねたことが、鳥居文之進が凶行に及んだ理由です。
文之進が藩から逃亡したため、平太夫の長男の伊織は、敵討ちに出ることになります。藩主が寵愛する平太夫の敵討ちということもあって、小西武四郎、佐々木久馬、樋口三右衛門、富田六郎、村井治助、そして、平太夫の弟で伊織の叔父にあたる玉井惣兵衛(たまいそうべえ)とその仲間(ちゅげん)の伊之助の総勢8人で、敵討ちの旅に出発することになりました。
逃亡した鳥居文之進は、剣客天野平九郎のもとにいました。
天野平九郎が鳥居文之進の味方についたのは、伊織たちにとって厄介です。その剣の実力は本物で、敵討ちに出た一行は、次々と斬られていきます。
黒雲峠で、文之進と平九郎と対峙する玉井伊織たち。その結末はいかに。
読後の感想
緊迫した敵討ちを描いた作品です。
剣の達人天野平九郎に次々と倒されていく玉井伊織の一行。このままでは、全員、斬られてしまうと思ったところで、玉井惣兵衛の活躍が光ります。
しかし、物語を通して惣兵衛が活躍したのは、ほんの一瞬だけ。最後は思わず笑ってしまいます。
秘図
主な登場人物
あらすじ
火付盗賊改に就任したばかりの徳山五兵衛秀栄(とくのやまごへえひでいえ)に大盗の日本左衛門の逮捕の命が下されたのは、延享3年(1746年)9月9日。彼が57歳の時でした。
五兵衛は、与力の堀田相模守(ほったさがみのかみ)ら9名と共に9月14日に袋井に到着し、捜査2日後には、大盗一味の天竜の金兵衛を捕まえました。金兵衛は、拷問の末、19日夜に日本左衛門が見付宿で夜通し博奕(ばくち)を催すことを白状します。
捕物の前夜、小用に起きた堀田は、まだ五兵衛が寝ずに起きているのに気づき、部屋の外から声をかけます。五兵衛は、あわてた様子で、何かを隠し、堀田を部屋にいれました。堀田は、捕物の前で寝つけないのかと思って、五兵衛に声をかけたことを話します。これに対して、五兵衛は、つい寝そびれたので日記を書いていたと答え、もう休むと言うと、堀田は退出しました。
実は、五兵衛が書いていたのは日記ではなく、30年間も趣味としていた秘戯画の透写しでした。
大盗一味の大捕物の後、五兵衛は65歳で最後の勤めを終え、やがて寿命を迎えます。彼の死後、秘図は一体どうなったのか・・・。
読後の感想
この作品は、徳山五兵衛秀栄に大盗の日本左衛門の逮捕の命が下るところから始まるので、火付盗賊改の大捕物が主題かと思うのですが、実はそうではありません。
五兵衛は、武道に秀でていたので、部下や友人から畏敬されていました。でも、そんな五兵衛にも人には言えない趣味があります。それが、秘戯画です。
どんなにまじめで無骨一辺倒な人でも、隠し事の一つや二つはあるものですね。
賊将
主な登場人物
あらすじ
薩摩藩出身の桐野利秋は、前名を中村半次郎といいました。幕末には、京都で人斬り半次郎と恐れられたほどの剣の達人で、西郷隆盛に可愛がられ、維新後に日本で最初の陸軍少将となります。
「今に見ちょれ!!」が半次郎の口癖。彼は、山林や荒地を借り受けては、一人で開墾を始め、朝早くから畑仕事をし、夜は太い木刀を持ち出して剣の鍛錬を行っていました。
半次郎の人生を変えたのは佐土原英助との出会いで、これが縁で、後に西郷隆盛の下で働くことになります。
時は明治となります。征韓論を主張した西郷隆盛は政争に敗れて新政府を去り、鹿児島に帰りました。それに続き、中村半次郎から改名した桐野利秋、篠原国幹(しのはらくにもと)、利明の従兄弟の別府晋介、辺見十郎太をはじめ、薩摩藩出身の軍人たちも鹿児島へと帰ります。
明治10年1月29日に鹿児島の私学校の生徒たちが大挙して政府の火薬庫を襲撃する事件が起こりました。政府の密偵が鹿児島で捕えられ、西郷暗殺の命を受けたことを自白したのが、事件の原因でした。
若者たちを制止できなくなった西郷隆盛は、東京へ向かって軍を進めることを決意します。そして、明治10年2月17日の大雪の日に桐野利秋は、西郷と共に出発するのでした。
読後の感想
日本初の陸軍少将となった桐野利秋を描いた短編です。
桐野利秋の生涯を描くのには、短編は短すぎるのではないかというのが正直な感想です。利明が、人斬り半次郎と恐れられていた幕末の京都での活躍が全く出てきません。
ただ、桐野利秋がどういう人物だったのかを知るのには、とても読みやすい作品となっています。
将軍
主な登場人物
あらすじ
息子の保典(やすすけ)の戦死の報告を乃木希典(のぎまれすけ)が受けたのは、明治37年(1904年)11月30日の夜でした。先にも勝典(かつすけ)が日露戦争で戦死しているので、乃木家はこれで断絶となりました。
日清戦争の時、陸軍少将であった希典は、旅順を1日で陥落させる働きを見せます。
それから10年。日露戦争でロシヤ軍が守る旅順は、どうしても陥落しません。乃木希典が率いる第三軍は肉弾戦を中心とした攻撃だったため、戦死者が膨れ上がっていくばかり。
ロシヤのバルチック艦隊が刻一刻と日本海に迫っています。早く旅順を攻略しなければ、戦局は日本にとって厳しいものとなります。そこで、二十八珊砲という巨砲を使って3回目の総攻撃を試みましたが、決定的な戦果を上げることができません。
旅順を正面から攻撃するのは困難と考えた第三軍は、近くの二0三高地に目をつけるのでした。
読後の感想
日露戦争で第三軍を指揮した乃木希典を描いた作品です。
物語の中心は、日露戦争ですが、ところどころで回想場面と共に乃木希典の実直な性格が紹介されていきます。日露戦争を描いた作品にしては、短編なので物足りなく感じますが、彼の生涯を短時間で知ることができるので、素晴らしい作品だと思います。
賊将-池波正太郎 |
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