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あばれ狼

手越の平八を主人公にした股旅もの3作品と真田家を題材にした4作品を収録した短編集です。「さいころ蟲」、「あばれ狼」、「盗賊の宿」の股旅もの3作品は続き物となっています。真田家4作品のうち「角兵衛狂乱図」は樋口角兵衛を、「男の城」は鈴木右近を主人公にした作品です。

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収録作品

  1. さいころ蟲
  2. あばれ狼
  3. 盗賊の宿
  4. 白い密使
  5. 角兵衛狂乱図
  6. 幻影の城
  7. 男の城

さいころ蟲

主な登場人物

あらすじ

小栗一家と竹原一家の大喧嘩に巻き込まれた手越(てごし)の平八は、小栗の伝吉を暗殺し、竹原の喜助から50両を受取って旅に出ました。

途中で知り合った50がらみの前砂の甚五郎に危ないところを助けられた平八。以後、2人はともに旅をすることになります。そして、宿泊した小屋に住む市蔵という老人と若い娘のために盗賊一味と戦うことになるのでした。

読後の感想

手越の平八という凶状持ちを主人公にした股旅(またたび)ものです。

途中で出会った前砂の甚五郎とともに世話になった市蔵老人と娘のために盗賊一味と死闘を繰り広げる場面は、ハラハラします。でも、この短編の見せ場はここではなく、その後に甚五郎から打ち明けられる一言です。

あばれ狼

主な登場人物

あらすじ

鳴滝の半蔵は、博徒の親分竹原の喜助を斬って逃げていた関口弥十郎を追い詰め、今にも斬ろうとしていました。

半蔵の気迫に負けた弥十郎は、自分を斬った後、ある女性に金を届けてくれるように彼に頼みます。これに拍子抜けした半蔵は、斬合いをやめました。

数日後、瀬戸川を渡ろうとしていた半蔵の目の前に女性を背負った人足が、川を渡ってくるのが見えました。そして、その後ろからは数人の侍に追われている関口弥十郎が逃げてきます。

その光景を見た半蔵の決断はいかに。

読後の感想

さいころ蟲の続きです。竹原一家の用心棒だった関口弥十郎が、竹原の喜助を斬って逃げたため、一宿一飯の義理がある鳴滝の喜助が彼の命を狙います。

しかし、弥十郎の話に心を寄せた喜助は、彼を逃がしてやりました。その後も、喜助は、別の侍たちに追われる弥十郎を助けてあげます。

たった一度しか会ったことがない弥十郎を助けようとする半蔵。その理由は、弥十郎と初めて会った時の彼の言葉に男気を感じたから。自分の命を張って5人の侍たちに立ち向かっていく半蔵の姿が、この短編で最も読みごたえがあります。

盗賊の宿

主な登場人物

あらすじ

橋場の小五郎は、恨みを晴らすため手越の平八の後を追いかけていました。

しかし、旅籠に泊まった小五郎は何者かに襲われ、長持の中に入れられた後、どこかへ連れて行かれました。小五郎を襲った者たちは、彼のことを重蔵と呼んでいました。小五郎は、重蔵とまちがえられて襲われたのです。

身動きできないほど弱っていた小五郎を助けたのは手越の平八でした。平八は8年前に世話になった市蔵老人と若い娘を訪ねて小屋へ向かいましたが、そこは以前と違っていました。

小五郎と瓜二つの重蔵と出会った平八は、小屋で起こった出来事を彼から聞かされるのでした。

読後の感想

さいころ蟲、あばれ狼の続きです。

物語は、さいころ蟲から8年後。手越の平八が世話になった市蔵老人と娘に会いに行くと、そこは盗人たちの宿に変わっていました。

短編なのですが、橋場の小五郎と重蔵との関係や、3人で協力して盗人たちから娘を助けに行くまでの展開に無理がありません。

無駄な描写がないので一気に読み終えてしまいます。

白い密使

主な登場人物

あらすじ

元和元年(1615年)の初夏。大坂城にたてこもる豊臣軍と徳川軍との間でにらみ合いが続いています。

そんな中、伊丹十兵衛ら6人の盗賊が山中で庄屋の屋敷を襲う計画を立てていました。と、そこへ土民らしい鼠色の布を頭から垂らした2人組がやってきます。

2人組が持っていたのは徳川家康宛ての密書。それを手にした伊丹十兵衛ら盗賊たちは、徳川に渡すべきか豊臣に味方する真田に渡すべきか思案するのでした。

読後の感想

大坂夏の陣で、真田幸村が徳川家康を奇襲する計画を立てます。その裏話が「白い密使」です。

盗賊の伊丹十兵衛が、徳川と真田のどちらに密書を渡すかを決断する場面が、この短編の見どころです。

角兵衛狂乱図

主な登場人物

あらすじ

天正10年(1582年)に武田勝頼が自害した時、12歳の樋口角兵衛は「おれが、殿さまのおそばについていたら、むざむざと殿さまを死なせずにすんだものをな」と言いました。また、自分の父が武田勝頼に従って戦死した時も「おれがついていたら、父上も死なずにすんだものをな」と方言をし、伯父の真田昌幸を喜ばせました。

初陣から華々しい活躍をした樋口角兵衛を見て真田昌幸は非常に喜びます。その後も角兵衛は戦場で見事な働きをしますが、関ヶ原の戦いで真田昌幸と幸村父子が西軍に味方したため、戦後、彼らとともに紀州九度山に流罪となります。

大坂夏の陣の後、真田信之のもとを訪れた角兵衛は、そこで出生の秘密を知らされるのでした。

読後の感想

真田昌幸と幸村に仕えた樋口角兵衛の生涯を描いた短編です。

樋口角兵衛は、戦国武将としては優れた人物でした。しかし、生まれたのが少しばかり遅かったため、働き盛りの頃には徳川家康の手によって乱世が終わりを迎えます。

泰平の世では必要とされることがない樋口角兵衛の武勇。その人生の幕は自らの手によって下ろされます。

幻影の城

主な登場人物

あらすじ

沼田万鬼斎顕泰(ぬまたばんきさいあきやす)は、金子美濃守鎮久(かねこみののかみしげひさ)の妹ゆのみを側室として娶りました。そして、ゆのみは平八郎影義を生みます。万鬼斎は、すでに正室阿牧(おまき)の方との間に3人の子をもうけており、三男の弥七郎朝憲が顕在でした。

天下を目論んでいた万鬼斎でしたが、いつしか上杉の傘下に入っていました。そして家督を朝憲に譲ります。

しばらくして、ゆのみから朝憲が命を狙っていると告げられた万鬼斎は、沼田に年賀に来た彼を惨殺します。しかし、万鬼斎もまた沼田平八郎影義に攻められ、沼田から脱出します。吹雪の中の逃避行で、ゆのみは死に万鬼斎も会津に逃れたものの数日後に息を引き取りました。

その後、真田昌幸が沼田を領し、金子美濃守は彼に仕えるのですが・・・。

読後の感想

戦国時代の沼田家の内乱を描いた短編です。

金子美濃守鎮久は、沼田万鬼斎顕泰に仕えながらも、様々な策を考え、沼田の城を我がものにしようとしましたが、実現しませんでした。

戦国時代にうまく頭を使って立ち回ろうとした武将の哀れな最期は、深い何かを感じさせます。

男の城

主な登場人物

あらすじ

名胡桃(なくるみ)の城を味方の裏切りによって占拠された鈴木右近忠重(すずきうこんただしげ)と母の堀切の御前は、捕えられて牢へ押し込められました。もはや、これまでと思った2人は自害を考えましたが、敵の中にそれを引き留める者がいました。

その者は、右近の父の鈴木主水忠則(すずきもんどただのり)が、城を奪われた責任をとって自害したことを告げ、右近に今死ぬことは無駄死にだと諭します。

名胡桃城を攻撃したのは北条氏政の配下の者でした。これに激怒したのが豊臣秀吉。名胡桃城は、鈴木主水が仕えていた真田昌幸のもの。これを取り返す口実を得て、豊臣秀吉は北条の小田原城を攻め落としました。そして、名胡桃城と沼田城が真田に返され、鈴木右近と母も自由の身となります。

その後、右近は沼田城で真田信之に仕えます。

信之からの失踪、関ヶ原の戦い、大坂の陣。時が過ぎて徳川秀忠の世となった時、真田信之に危機が訪れるのでした。

読後の感想

真田信之に仕えた鈴木右近忠重を主人公にした作品です。約100ページほどある長めの短編ですが、展開が早いので読みやすくなっています。

鈴木右近は、それほど有名ではありませんが、彼の影の活躍がなければ真田家は取り潰されていたかもしれません。裏方として生きた戦国武将の生涯は、合戦を主題とした歴史小説とは、また違ったおもしろさがあります。

あばれ狼-池波正太郎
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