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新・平家物語(8)

源頼朝を討つために富士川に布陣した平維盛の軍勢は、戦うことなく退却し、平家のもろさを源氏に示すことになりました。福原から京に都を戻した清盛は、平家に逆らう興福寺を討つために重衡の軍勢を南都に向かわせます。重衡軍は、町に火を放ち、興福寺は大仏とともに灰となるのでした。

主な登場人物

あらすじ

伊豆で挙兵した源頼朝を討つため、平維盛の軍勢が富士川に布陣しましたが、兵には戦に臨む気概が見られず、戦うことなく退陣します。

平家軍に勝利した頼朝の陣では、奥州から義経が駆けつけ、兄弟が初対面を果たしました。

その頃、京では、金売り吉次が奥州から訪れ、朱鼻の伴卜(五条の伴卜)と源平合戦に乗じた儲け話に花を咲かせていました。

平清盛は、鳥羽に幽閉していた後白河法皇と面会し、都を福原から京に戻し、法皇と手を取って政治を行う決意をします。しかし、平家に対する風当たりは強く、興福寺と比叡山延暦寺が平家打倒のための連絡を交わし合っていました。

清盛は、重衡に興福寺を討つために出陣を命じます。南都に向かった重衡軍は、町に火を放ちます。その火は風にあおられ興福寺の堂塔伽藍まで達し、盧遮那仏まで灰となってしまいました。

事態を重く見た清盛でしたが、重衡を責めることなく、世のそしりを一身に受ける覚悟をするのでした。

読後の感想

第8巻は、富士川の戦いから始まります。

富士川の戦いは、平家軍が水鳥の鳴き声を源氏の夜襲と勘違いし、一目散に逃げたと語り伝えられています。本作では、この辺りについて深くは描かれていませんが、保元平治の乱を経験している斎藤実盛の言葉が、平家の平和ボケを読者に伝えています。

第8巻では、頼朝と義経の対面、平重衡の南都焼き討ち、木曽義仲の登場など、物語の重要な場面が多く描かれています。

中でも、平清盛の死が、第8巻の最大の読みどころです。

清盛は子だくさんで、孫も大勢いましたが、自分の亡き後を任せられる者がいないことに不安を抱えていました。現在の平家の地位を築きあげた清盛の苦労を誰も知ることなく、平家の栄華がいつまでも続くと子や孫たちは思っていました。

しかし、富士川での敗戦、木曽義仲の勢いは、確実に平家の世を終わらせつつありました。清盛は、自分の代で平家は終わりだと悟っていたのかもしれません。でも、清盛は、幼い頼朝の命を助け、源氏の身寄りが多い伊豆に流した恩をきっと頼朝は忘れていないだろうと期待しており、平家が政治の世界から追いやられても滅亡までは考えていなかったのではないでしょうか。

新・平家物語(8)-吉川英治
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