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武田三代

武田信虎、信玄、勝頼の三代に渡る武田家を描いた短編が7作収録されています。甲斐を追放された信虎がその後どうなったのか、信玄が今川義元から借り受けた伊勢物語の行方、武田家を裏切った穴山梅雪の最期など、歴史の中で忘れ去られた事柄が著者独自の視点で描かれています。

収録作品

  1. 信虎の最期
  2. 異説 晴信初陣記
  3. 消えた伊勢物語
  4. まぼろしの軍師
  5. 孤高の武人
  6. 火術師
  7. 武田金山秘史

信虎の最期

主な登場人物

あらすじ

天正2年(1574年)に高天神城を取り戻した武田勝頼のもとに祖父信虎が高遠城で待っている旨を伝える使者がやってきました。

子の信玄に追放されていた信虎は、そろそろ国に帰りたいと勝頼に頼みます。しかし、すでに81歳となっていたものの気力体力とも若々しさを維持していた信虎に信玄以来の家臣達は不安を覚えるのでした。

読後の感想

歴史の中には、その後が気になる人物が何人もいます。武田信玄の父信虎もその一人ですね。粗暴な振る舞いから武田家を追い出された信虎は、今川家が引き取りましたが、後に京都で暮らすようになります。年をとれば性格が柔和になるものですが、信虎は若き日と変わらず荒々しい性格は変わっていませんでした。

信虎の最期はどうだったのか。残っている史料からの推理が興味深い作品です。

異説 晴信初陣記

主な登場人物

あらすじ

武田家の宿老板垣信形(信方)は、ある日、間者を捕えます。

海の口城攻略を進める武田信虎。しかし、城を落とせないまま信虎は兵を退きます。しかし、この戦いで初陣を果たした武田晴信(信玄)が、見事敵将を討ち取るのでした。

読後の感想

武田信玄の初陣を描いた作品です。

戦国時代の名将武田信玄も、若き日は自らの頭脳だけで敵と戦うことができませんでした。信玄は、初陣を勝利で飾ります。若い時から名将の風格を備えていた信玄。しかし、初陣では、ある者の助けを借りていました。

消えた伊勢物語

主な登場人物

あらすじ

武田信玄が今川義元から借りていた伊勢物語の定家本が、ある時消えます。

すでに今川義元は他界していましたが、その子氏真から伊勢物語の返還を求められていた信玄。消えた伊勢物語の行方は。

読後の感想

戦国武将の中には文化人もいました。その代表と言えるのは今川義元でしょう。義元は、ある時、武田信玄に頼まれて貴重な伊勢物語の定家本を貸します。

この伊勢物語の紛失が、やがて武田家の内紛をもたらすという話の流れがおもしろいです。

まぼろしの軍師

主な登場人物

あらすじ

武田家が滅亡した後、山城国妙心寺の僧鉄以のもとを老武士が訪ねます。

老武士は、鉄以が武田信玄の軍師山本勘助の子であることを知っており、鉄以に山本勘助の生前の活躍を教えます。話を聞いた鉄以は、父勘助がどのような働きをしたのかを調べ始めるのでした。

読後の感想

武田信玄の軍師山本勘助は、4度目の川中島の戦いで戦死しました。信玄を作戦面で支えたのは山本勘助だと伝えられています。

しかし、山本勘助は謎が多い人物です。なぜ、山本勘助は有名になったのか、著者独自の視点で進む物語から、その理由を推理できます。

孤高の武人

主な登場人物

あらすじ

長篠の戦い以後、国力を失いつつある武田家。それでも、桜井信久は主君勝頼のために戦い続けることを決意します。

やがて、天正10年(1582年)3月に木曽義昌の裏切りにより武田勝頼は自害に追い込まれるのでした。

読後の感想

武田家に仕える武将を主人公にした作品です。

武田家滅亡時には多くの武将が主君勝頼を裏切りました。それでも、最後まで勝頼のために戦う桜井信久。勝頼の死を知った後の彼の決断に戦国武士の理想像を見ます。

火術師

主な登場人物

あらすじ

天正7年(1579年)1月の寒い夜。百姓の利吉とおもんは駆け落ちします。しかし、2人は途中で番屋に連行され、そこで火術師と出会います。火術師は、2年間自分のもとで利吉を働かせることにし、2人は離れ離れとなるのでした。

読後の感想

武田家滅亡のカギを握る火術師を主人公にした作品です。

武田家の滅亡は、様々な場面で武田勝頼の決断が裏目に出たことが原因です。本作では上杉家の内紛に巻き込まれた武田勝頼の決断を狂わせる事件が描かれています。

武田金山秘史

主な登場人物

あらすじ

高天神城を力攻めで攻略した武田勝頼に対して不信感を抱く穴山梅雪。

彼は、これからの戦は鉄砲が重要となることを理解しており、堺の商人塩屋三郎四朗から千挺の鉄砲を購入することを考えます。しかし、騎馬隊を過信する武田勝頼は、穴山梅雪の主張を認めず、長篠の戦いで武田軍は織田徳川連合軍の鉄砲隊に大打撃を受けました。

時は過ぎ、穴山梅雪は徳川に寝返り武田勝頼を天目山で滅ぼします。勝頼は死の直前、寵臣の土田惣蔵にこの無念を晴らすことを頼むのでした。

読後の感想

武田家滅亡の最大の原因となったのは穴山梅雪の裏切りでした。本作では、武田家の金山に目を付けた堺の商人塩屋三郎四朗と鉄砲が欲しい穴山梅雪の取引が興味深いです。

したたかな商人魂を利用して主君の敵討ちを誓う土田惣蔵がどのように本願を達成するのか、休むことなく最後まで読みたくなる作品です。

武田三代-新田次郎
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