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流星(上)

父信秀の死後、市は、2人の兄が織田家の家督を争う環境で育っていきます。兄信長は内外に敵を持ち、織田家がいつ滅ぼされるか分からない状況で、市は義姉の濃姫から様々なことを学びます。やがて、信長が美濃の攻略を進め、上洛の機会をうかがうようになると、市に浅井長政との縁談の話が持ち込まれました。

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主な登場人物

あらすじ

7歳になった市は、那古野城で暮らしていました。父の織田信秀が亡くなる前、那古野城は嫡男の信長が譲り受けていました。そして、信秀が亡くなった後、信長の弟で市の兄である信行が末森城を引き継ぐことになりました。

織田家は、父信秀の時代から内外に敵を持っており、信長が織田家を継いだ後もその状況に変わりはありません。

信長は舅の斎藤道三の力を借りて難局を乗り切ろうと考えますが、重臣の平手政秀が他国の助けを借りることは織田家のためにならないと信長を説得します。そんな時、子の五郎右衛門が信行の元に奔ろうとしたのを知った平手政秀が切腹し、市は大きな衝撃を受けました。

平手政秀の死から間もない頃、市は信長の妻の濃姫から、京下りの反物などを与えられました。市は、他国から尾張に嫁いできた濃姫との会話の中で、様々なことを学びます。

その頃、兄・信長は隣国の今川の脅威にさらされるとともに身内の信行と家督を争っていました。信長は、いったんは信行を許したものの、再び謀反を企てたとして信行を暗殺します。

それからの織田家は、今川義元を桶狭間で討ち取り、美濃の斎藤を攻略しながら上洛の機会をうかがいます。そして、市に近江の浅井長政との縁談の話がもたらされました。

読後の感想

織田信長の妹で、浅井長政の妻の市を主人公にした作品です。

戦国ものは、男性目線で描かれた作品が多いですが、本作は女性目線で描かれているのが新鮮です。

浅井長政に嫁ぐ前の市がどのような人物だったのか、詳しく描いている作品は多くありません。史料からは市の前半生を知ることは難しいのでしょう。

本作で登場する市は、聡明な女性として描かれています。彼女の生き方に影響を与えたのは、兄・信長に嫁いできた濃姫でした。知人のいない織田家に嫁いできた濃姫は、気持ちの強い女性であり、他人と接する際の繊細さも合わせ持っていました。

やがて、市も浅井長政に嫁ぐ時がやってきます。当時の女性は、嫁ぎ先に忠義を尽くすことよりも、生家を重んじる風潮がありました。そして、嫁ぎ先で知り得た情報は生家に教えていましたし、嫁ぎ先と生家との間で戦となれば、妻は生家に戻されるのが当たり前でした。

女性が陰で男性を支えることを美徳と考えるようになったのは、江戸時代から明治時代のことであり、戦国時代以前は女性が男性の後ろを歩くことを強要する慣習はありませんでした。本作では、戦国時代の女性が現代人が思っている以上に自由だったことを教えてくれます。

市は、幼い頃に兄同士の争いを経験し、大人になってからは兄と夫との争いに巻き込まれた不幸な女性のように思われがちです。しかし、その印象は、現代人が勝手に作ったものであり、実際の市は、自分で選択した人生を生き抜いた女性だったのではないでしょうか。

流星(上)-永井路子
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