裸足の皇女
壬申の乱に巻き込まれていく山辺皇女を描いた「裸足の皇女」、大伴坂上郎女の恋愛遍歴を描いた「恋の奴」、狭野弟上娘子と中臣宅守との恋を描いた「火の恋」など日本の古代を題材にした9作品を収録。 |
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収録作品
冬の夜、じいの物語
主な登場人物
あらすじ
冬のある晩。白橿(しらかし)のじいは、糟酒をすすりながら、ぶつぶつ呟いていました。
以前にも、同じ話を繰り返し聞かされてきた亜香女(あかめ)は、もう一度、その話を聞いてやろうという気になります。
大豪族の娘であった小姉君(おあねぎみ)が、湯浴みをしているのを見張っていた白橿。突然、湯浴み屋のほうから彼女の悲鳴が聞こえてきました。そして、湯浴み屋から裸形の男が飛び出してきたので、白橿は、体当たりをくらわせます。
しかし、男は飛ぶように逃げていきました。
読後の感想
大豪族の蘇我氏の秘密を白橿のじいが、孫の亜香女に話す物語です。
蘇我氏の娘であった小姉君は、欽明大君に見初められ、やがて結婚します。一方で、小姉君の姉であった堅塩媛(きたしひめ)のもとにも、欽明大君は訪れていました。当時の慣習として、妻訪いに訪れる場合、その家にほかに娘がいれば、そこでも同じように夜を過ごすものでした。
小姉君は、茨城皇子(うまらきのみこ)を産みますが、彼が大君の後を継ぐことを拒もうとする動きがありました。それはいったい誰なのか。
古代のサスペンス劇場のような短編です。
裸足の皇女
主な登場人物
あらすじ
蘇我赤兄は、ひめこみに会うと、父帝天智天皇にかわいい弟が欲しいとねだるように言っていました。
しかし、彼は、左大臣になると、ひめみこにそう言うことはなくなり、代わって、早く大きくなるよう言い始めます。天智天皇が、病の床につき、もう皇子は望めないと知ったからです。
やがて、天智天皇が崩御すると壬申の乱が起こり、ひめみこもその争いに巻き込まれるのでした。
読後の感想
大津皇子の后で蘇我赤兄の孫にあたる山辺皇女を主人公にした短編です。物語は、彼女の乳母の胡奈女(こなめ)の視点で進んでいきます。
出世を目論む蘇我赤兄。乙巳の変から続く因縁が、ひめみこと大津皇子の人生に大きな影響を与えます。
殯の庭
主な登場人物
あらすじ
父帝天武天皇の殯(もがり)はうんざりするほど長く続きました。何度も何十度も殯という言葉を聞かされ育った皇子新田部は、退屈を持て余しています。
そんな新田部も大きくなり、自分に麻呂という弟がいることを知ります。しかし、父は天武ではなく藤原不比等。それ以来、新田部は、不比等を嫌うようになりました。
新田部は、成長していくにつれ政治がどのようなものかわかり始めます。そして、これまで、どれだけ多くの血が流されて来たかということも。やがて、新田部は、自分も弟麻呂のために血なまぐさい世界に入っていくのでした。
読後の感想
長屋王の変で活躍した新田部親王を主人公にした短編です。
飛鳥時代から奈良時代にかけて、天皇家では内紛が相次ぎました。持統天皇、元明天皇、元正天皇と女帝が多く即位したのもこの時代です。そして、その頃、権力を強めていったのが藤原不比等でした。
母の再婚相手である藤原不比等を嫌う新田部でしたが、不比等が死ぬと異母弟の麻呂に力を貸します。ずっと嫌っていた不比等の子である麻呂を助けようとする新田部の心模様が、本作の読みどころです。
恋の奴
主な登場人物
あらすじ
穂積皇子は、酒に酔うと郎女(いらつめ)の前でいつも同じ歌を歌っていました。
家にある櫃に鍵刺し蔵めてし恋の奴がつかみかかりて
その歌を郎女が口ずさんでいるのを聞いた異母兄の宿奈麻呂は、穂積皇子の歌だと気が付きます。歌の意味を解した宿奈麻呂は、郎女に穂積皇子と但馬皇女の関係を教えました。
そして、郎女は、穂積皇子に但馬皇女との関係が本当なのかどうかを尋ねるのでした。
読後の感想
大伴坂上郎女と穂積皇子の恋を題材にした短編です。
穂積皇子は、壬申の乱で天武天皇に敗れた蘇我赤兄の娘の子。そして、彼が愛したのは、天武天皇の第一皇子を夫に持つ但馬皇女。
大伴坂上郎女は、権力争いが激しい廟堂での許されぬ恋の話を但馬皇子から聞かされるのでした。
黒馬の来る夜
主な登場人物
あらすじ
宿奈麻呂は、異母妹の郎女からいくつもの情事を打ち明けられていました。
今度の郎女の相手は、黒馬に乗って彼女のもとを訪れていました。その男が誰なのか、ある晩、宿奈麻呂は、佐保川でその正体を確かめるのでした。
読後の感想
「恋の奴」の続編です。
郎女の次の恋人は、廟堂での権力者。一方、異母兄の大伴旅人は中納言。郎女に近づく黒馬に乗った男の目的に宿奈麻呂が気づきます。
水城相聞
主な登場人物
あらすじ
大宰帥として筑紫に下った異母兄の大伴旅人が、任地で妻を喪いました。そこで、郎女は、旅人の力になろうと船で筑紫に向かいます。
筑紫では、郎女の世話を大伴百代が務めました。やがて、二人は、恋に落ちるのでした。
読後の感想
「黒馬の来る夜」の続編です。大伴坂上郎女は、宿奈麻呂の妻となりましたが、大宰府で彼女の世話をする大伴百代と恋をします。古代の貞操観念はこんなものだったのか、それとも彼女が特別だったのか、色々感がえさせられる短編です。
古りにしを
主な登場人物
あらすじ
筑紫から上京した異母兄の大伴旅人が世を去った時、郎女は、筑紫での大伴百代との不実な別れがくやまわれてきました。そして、宿奈麻呂との間もすこしずつ遠くなってゆくように感じられてきました。
旅人が亡くなってまもなく、光明皇后の生母橘三千代がこの世を去り、また、藤原四兄弟も疫病で次々に倒れると廟堂は混迷し始めます。
そんな頃、旅人の息子の家持が、郎女のもとに恋の歌を寄せるようになったのでした。
読後の感想
「水城相聞」の続編です。
多くの恋を経験してきた郎女も、中年となり、若いころのような恋はできなくなっていました。筑紫で大伴百代と不実な別れをしたことも郎女を臆病にしていきます。
そして、政治が混迷する中、郎女に宿奈麻呂との別れが迫ります。
火の恋
主な登場人物
あらすじ
平城宮の蔵部(くらべ)に女嬬(にょじゅ)として仕える狭野弟上娘子は、男と口をきくことも、恋歌をやりとりすることも、とにかく男と名のつくものとの交渉が禁じられていました。
ある日、娘子は、衣装櫃の中の羅(うすもの)が1枚足りなくなっていたことを女嬬頭の黒刀自女にとがめられます。その責任を取るため、娘子は、市で代わりの羅を買ってくることになったのですが、そこで、中臣宅守と言葉を交わしたのでした。
読後の感想
狭野弟上娘子と中臣宅守との恋を描いた短編です。
聖武天皇の時代、女嬬は聖処女でなければなりませんでした。その禁を破ると、女嬬が産んだ子が天皇の子なのかどうかわからなくなるからです。
女嬬として仕えることは、天皇以外の男性と一切のかかわりを持ってはならないということ。中臣宅守と出会ったことで、女嬬の狭野弟上娘子の運命が変わってしまいます。
妖壺招福
主な登場人物
あらすじ
藤原葛野麻呂を大使とした遣唐使一行は、九州の鴻臚館(こうろかん)で風待ちをしていました。
従者の登紀麿は、食糧などを運び込む作業のために乗船。そして、船乗りの川樫も乗船を命じられます。
川樫は、船倉の奥に忍び込み、盗んできた沙金を登紀麿に掴ませます。どうせ海に沈む船だから少しばかりの沙金を拝借するのは功徳になると悪びれることもない川樫。
後日、唐に到着した登紀麿は、川樫に渡された沙金で玻瑠壺(はりつぼ)を買うのでした。
読後の感想
遣唐使船に乗船した2人の男を描いた短編です。
不思議な能力を持つ川樫と出会った登紀麿は、唐で玻瑠壺を購入します。その目的は、川樫の娘の泉水女(いずめ)に贈るため。その想いを遂げようとした登紀麿でしたが果たして。
裸足の皇女-永井路子 |
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