陰陽師 鳳凰ノ巻
戒律を破って倒れた智興内供を救う「泰山府君祭」、捨てた女が鬼となり恐怖する男を描いた「青鬼の背に乗りたる男の譚」、鴨川の氾濫を防ぐため人柱になった霊が夫婦を悩ます「手をひく人」、安倍晴明と蘆屋道満が宮中で方術比べをする「晴明、道満と履物の中身を占うこと」など7作品を収録。 |
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収録作品
泰山府君祭
主な登場人物
あらすじ
10日ほど前に三井寺の智興内供が倒れました。
道摩法師(蘆屋道満)は、智興内供の体を触れましたがどうすることもできません。そして、安倍晴明に頼んで泰山府君の力を借りるしかないと述べました。
それを伝え聞いた帝は、源博雅を通して晴明に泰山府君祭を速やかに行うようにとの勅を伝えたのでした。
読後の感想
どんなに立派なお坊さんでも、煩悩を捨てきれないものなのだなと考えさせられる短編です。
年老いた智興内供は、体力が衰えてきたこともあったのか、つい戒律を犯したくなります。その心に蘆屋道満がつけいり、智興内供は死んだように眠ってしまいました。
泰山府君は、死者の魂の善悪を裁く神で、地獄の閻魔大王と結びつき信仰され続けています。泰山府君祭は、死者を生き返らせる行事であり、安倍晴明は、それを得意とする陰陽師として有名です。晴明は、智興内供を生き返らせることができるのか。
青鬼の背に乗りたる男の譚
主な登場人物
あらすじ
鴨直平は、1年前に新しい女ができたので、妻の萩を離縁しました。
それから3ヶ月が過ぎ、萩は、夜になると家から出て、奇声を発しながら走り回るようになります。その声は、最初は、直平を慕う言葉だったのが、急に彼を呪う怖い言葉に変わります。
その後、夏になり、萩は、急に何も食べなくなり餓死してしまいました。
直平は、餓死した萩の姿を見たものの放置し帰宅。それから、夜半になると、彼を呼ぶ女の声が聞こえるようになるのでした。
読後の感想
妻を捨てた夫が、夜な夜な鬼に悩まされる恐ろしい短編です。
鬼になった妻が、自分を捨てた夫を探し回る姿は、読んでいて寒気がしてきます。安倍晴明は、鴨直平を鬼になった妻から助けられるのか。
月見草
主な登場人物
あらすじ
8年ほど前に亡くなった大江朝綱の屋敷で文章(もんじょう)好みの輩が、月を見ながら詩句を詠じていました。
そこに朝綱に仕えていたという女が現れ、朝綱からたまわったという歌を詠み始めました。
かけたれば月こそおしめこの宮の
沙(いさご)踏みけるその足の下
女は、この歌の意味を問いましたが、誰も答えられません。そこで、女は、歌の意味がわかる者を連れてきて欲しいと言い、姿を消しました。
読後の感想
大江朝綱が遺した歌の意味を安倍晴明が解読する短編です。
物語は、いつものように安倍晴明と源博雅との会話から始まります。両者の会話が、その後の展開に生きてくるのですが、本作では、博雅の一言が歌の解読に大きく貢献します。
漢神道士
主な登場人物
あらすじ
深夜になると、藤原為輔のもとに白髪、白髭の老人が訪ねてくるようになりました。
為輔は、老人に手を取られ真っ赤に焼けた2本の鉄柱の前に連れてこられ、何も抵抗できないまま、その1本に裸で抱きつかされます。全身が焼ける苦痛に悲鳴を上げる為輔。
それが、3晩続いたことから、為輔は、源博雅を通じて安倍晴明に相談するのでした。
読後の感想
因果応報という言葉がぴったりくる短編です。
自分の行いは忘れていても、被害者は覚えているもの。為輔は、いったい何をしてしまったのか。
手をひく人
主な登場人物
あらすじ
ある日、猿重とその妻は、大津に出かけた帰りにささいなことで喧嘩となりました。
いさかいは、鴨川の橋の上でも続き、その夜は、二人離れて寝ることに。猿重が眠っていると、外から彼を呼ぶ男の声がしたので出てみました。すると、男は、猿重の手を取り、鴨川の橋まで連れて行ったのでした。
読後の感想
平安時代の鴨川は、よく氾濫し当時の人々は洪水に悩まされることがしばしばありました。本作は、その鴨川の洪水を題材にした作品です。
洪水になるたびに橋が流されることから、人柱を立てて流されないようにしたことが後に猿重夫妻に怪異をもたらします。
猿重の手を取って鴨川の橋に連れて行った男は何者なのか。
髑髏譚
主な登場人物
あらすじ
西の京にある最照寺の忍覚和尚が、朝の勤行に姿を現さないことをいぶかしんだ弟子の元心は、忍覚の様子を見に行きました。すると、忍覚は、まだ夜具の中で眠っていました。
元心が忍覚を起こそうとしても、全く起きません。異変を感じた元心は、他の僧に報告します。
他の僧たちも忍覚の様子を見に行くと、彼は眠ったまま大きな口を開け、不気味な呻き声を上げて苦しんでいました。暴れる忍覚を押さえようとすると、彼は大きな悲鳴を上げ目を覚ましたのでした。
読後の感想
誰にでも過去を悔いたことはあるもの。そして、懺悔をしたこともあるはずです。本作は、その懺悔を題材にした短編です。
最近は、ネット上で、些細なことを叩く人が増えており、その行いが人々に苦痛を与えていることがあります。本作を読むと、きっと、その程度のことは許してあげようという気持ちになることでしょう。
晴明、道満と履物の中身を占うこと
主な登場人物
あらすじ
ある時、宮中で、帝が優れた陰陽師は何人もいるが、その中でひとりをあげるとすれば誰かと言い出しました。
周りの人々は、様々な陰陽師の名をあげていき、その中に安倍晴明と蘆屋道満の名もありました。最終的にこの2人を宮中に呼んで方術比べをさせることに決まります。
方術比べの当日。晴明と道満は、様々な方術を競い合います。そして、藤原忠平は、用意した箱の中を言い当ててみるように2人に命じるのでした。
読後の感想
安倍晴明と蘆屋道満が、読み応えのある方術を繰り広げます。
いったいどちらが優れた陰陽師なのか。主人公は安倍晴明だから、蘆屋道満が負けるに違いないと思いながら読み進めるも、その結末は、ルパン三世のような意外なものでした。
陰陽師 鳳凰ノ巻-夢枕獏 |
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