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陰陽師

平安時代の陰陽師安倍晴明が、都で起こる様々な怪異を解決していきます。帝のもとから盗まれた琵琶を取り戻す「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」や毎晩賀茂忠輔の元にやって来る黒川主を描いた「黒川主」など、短編6作品が収録されています。

収録作品

  1. 玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること
  2. 梔子の女
  3. 黒川主
  4. 鬼のみちゆき
  5. 白比丘尼

玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること

主な登場人物

あらすじ

ある晩、玄象という名の琵琶が帝のもとから盗まれる事件が起こりました。

そして、2日前にその玄象の音色を源博雅は蝉丸とともに物見櫓の近くで聞いたことを安倍晴明に話します。さらに源博雅は、昨晩も羅城門で玄象の音色を聞いたことを話し、今晩も羅城門に行くから安倍晴明にも付き合うように言います。

その晩、2人は、蝉丸とともに羅城門に向かいました。すると、羅城門の上から、漢多太(カンダタ)が弾く玄象の音色が響いてくるのでした。

読後の感想

陰陽師の第1話です。

主人公は、陰陽師の安倍晴明。物語の序盤では、陰陽師が占い師や幻術士のようなものであること、陰陽師が操る精霊を式神(しきしん/しきがみ)ということ、陰陽師が唱える呪(しゅ)が呪文のようなものであることが説明されます。もちろん、安倍晴明がどのような人物だったのかも、簡単に触れています。

「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」では、帝のもとから玄象を盗んだ漢多太と安倍晴明が対決します。玄象を取り戻すため、羅城門に向かった安倍晴明と友人の源博雅。しかし、源博雅は、漢多太によって金縛りにあってしまいます。

安倍晴明は、どうやって漢多太を倒すのか。

梔子の女

主な登場人物

あらすじ

ある日、源博雅が安倍晴明を訪ねてきました。

源博雅は、知り合いの梶原資之が両親を亡くしたことで出家し寿水となり、親の供養に般若経の写経を一日十回、一千日続けることにしたことを話します。

そして、百日余り過ぎた頃、寿水が八日ほど前からあやかしに悩まされていることを晴明に相談しました。そこで、2人は、寿水を訪ねるのでした。

読後の感想

物語は、源博雅が安倍晴明を訪ねるところから始まります。

2人の会話の中で、呪とはどういうものかを晴明から博雅に教える場面が描かれていますが、この会話が物語の最後に生きてきます。

あやかしに悩まされる寿水でしたが、晴明が写経に目を通したことをきっかけに救われます。

黒川主

主な登場人物

あらすじ

ある晩、源博雅が鮎を持って安倍晴明の邸を訪れました。

博雅が持ってきた鮎は、鵜匠の賀茂忠輔からもらったもの。その賀茂忠輔に妖異があったことを博雅が晴明に話し始めます。

毎晩、賀茂忠輔のもとに黒川主と名乗る得体の知れない男が訪れ、娘の綾子に生きた鯉を食べさせているとのこと。そして、綾子を自分の妻にしたいと賀茂忠輔に言ったことを晴明に語ります。

晴明と博雅は、賀茂忠輔の邸を訪ねることに。

読後の感想

源博雅が安倍晴明を訪ねるところから始まるのが陰陽師の定番。

鮎を持って訪れた源博雅は、賀茂忠輔のもとに毎晩、黒川主が現れることを晴明に話します。黒川主の目的は何のか、そして、晴明がこの妖異をどうやって解決するのか。博雅との会話の中で説明する呪が物語の最後に理解できます。

主な登場人物

あらすじ

長月の夜。安倍晴明と源博雅は、牛車に乗って出かけました。

牛車の中で、晴明は博雅に4日ほど前に応天門にあやかしが出たことを話します。

応天門は雨が漏るということで、工(たくみ)が屋根の下の2枚重ねの板を外したところ、孔雀明王の呪(ダラニ)が書かれた札が出てきました。その札を板から剥がそうとしたところ破れてしまいます。

その後、雨は漏らなくなったものの、あやかしが出るようになったのでした。

読後の感想

本作では、牛車に乗った安倍晴明と源博雅が百鬼夜行と出会います。応天門のあやかしをどう解決するかよりも、2人が牛車に乗って尾張義孝(おわりのよしたか)の屋敷に向かう場面が、本作の読みどころと言えます。

牛車に乗ってこの世のものではない世界に向かう場面は、読んでいると背筋がゾクゾクとしてきます。

鬼のみちゆき

主な登場人物

あらすじ

盗人の赤髪の犬麻呂は、盗みに入ろうとした家で子供と母親に姿を見られ、2人を殺して逃げました。

逃げる途中、犬麻呂は、無人で動く牛車に遭遇。その後、犬麻呂は、うわごとを言いながら歩いているところを捕らえられ、その日のうちに獄死します。

これを源博雅が安倍晴明に話し、さらに3日前の晩にも知人の藤原成平が同じものを見たことを伝えました。そして、2人は、三条大路に牛車の正体を見に行くのでした。

読後の感想

物語は、赤髪の犬麻呂が盗みに入るところから始まります。

その犬麻呂は、帰りに無人で動く牛車に乗っていた鬼につかれて間もなく亡くなります。

いつものように源博雅が安倍晴明を訪ね、無人の牛車の話を晴明に聞かせます。その時、博雅は、女童からもらった文に書かれている歌を晴明に見せ、鬼退治へと続いていきます。

鬼が人を食べる場面は、なんとも恐ろしく寒気がしてきます。

鬼と歌はどう関係するのか、そして、晴明はどうやって鬼を退治するのか。

白比丘尼

主な登場人物

あらすじ

雪が降る夜。

火鉢を挟んで源博雅と安倍晴明が胡坐をかいています。

博雅は、晴明に5、6人斬ったことがある太刀を持ってくるように依頼されたことから、その太刀を持参していました。晴明が、なぜ、このような太刀を持ってくるように言ったのか、その理由を聞きそびれていると、雪が降る庭に黒い僧衣をまとった一人の女が現れたのでした。

読後の感想

安倍晴明が若かった時代の恋の様子が垣間見られる短編です。

生物には寿命があり、やがて死を迎えます。死から逃れたいと思うのは、すべての生物が思うことでしょう。でも、本作を読むと、死なないことは、寿命があることよりも不幸なことではないかと考えさせられます。

死があるからこその生なのだと、晴明と博雅の前に現れた女が教えてくれます。

陰陽師-夢枕獏
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