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鎮西八郎為朝(下)

保元の乱に敗れた為朝は、伊豆大島に流され流人として生活することになりました。しかし、彼の命を狙う工藤茂光は、何度も大島に兵を送り、為朝を討ち取ろうとします。大島にいては危険だと悟った為朝は、工藤の軍船を奪い、安住の地を見つける旅に出るのでした。

主な登場人物

あらすじ

保元の乱に敗れた為朝は、両肘の関節を外され、伊豆大島への流罪が決まりました。

大島に到着した為朝は、工藤茂光に監視を託された三郎太夫敏定に身柄を預けられます。また、悪七別当ら家臣たちも大島に到着し、為朝はこれまでのように彼らと一緒に生活することになりました。

しかし、島民たちまで為朝を慕うようになったことで、自らの地位が危うくなると思った三郎太夫敏定は、工藤茂光を頼り為朝の命を奪おうと計画します。そんな時、御宅島から為朝のもとに鬼退治をして欲しいとの使者が訪れます。使者の話を聞いた為朝は、一部の家臣たちとともに御宅島に行き、鬼がいかなる者かを確かめることにしました。

一方、為朝留守中の大島では、工藤の兵たちが上陸し、為朝の館を襲撃し始めます。大島に残った須藤重季らは工藤の兵たちと戦いますが、その最中に御神火山が噴火し、大島が炎と煙に包まれました。

火山爆発後に大島に戻った為朝は、島民のために被害の復旧に当たり、さらに彼らから慕われるようになります。

しかし、なおも為朝の命を狙う工藤茂光は、軍船に兵を乗せ大島に向かう準備を進めます。何度戦っても自分の命が狙われることを悟った為朝は、先手を打ち、工藤の軍船を奪って大海原を旅するのでした。

読後の感想

保元の乱に敗れた源為朝は、伊豆大島に流罪となり、その地で最期を遂げたことになっています。

一方で、為朝は伊豆大島では死なず、遠く琉球に渡り諸島を支配したとの伝説も残っています。下巻では、この伝説に基づき物語が進んでいきます。

伊豆で流人として生活をしていた為朝のもとに御宅島から使者が来ます。御宅島では、ある日、鬼がやってきて島民を苦しめていると使者が伝えると、為朝は御宅島に向かい、その真偽を確かめることにしました。本作は、上巻でもファンタジーのような展開になっていましたが、その傾向は下巻でも続きます。

やがて、都では、平治の乱が起こり、保元の乱で敵となって戦った義朝が命を落とします。義朝の家臣たちは、源氏再興を為朝に託そうとしますが、父子兄弟の骨肉の争いに嫌気がさしていた為朝は、奪い取った工藤の軍船に乗って九州へと旅に出ます。伊豆で生活して以降の為朝は、平穏な暮らしを望んでいましたが、周囲がそれをさせようとはしませんでした。

安住の地を求め九州に向かった為朝でしたが、すでに九州は平氏の支配下にあり上陸が叶いませんでした。そのため、さらに南へと船を進め、家臣の三町礫紀平治の生まれ故郷である琉球にたどり着きます。

源為朝は、保元の乱での活躍の印象が強いですが、本作に登場する彼はただの豪傑ではありません。家臣、民衆、そして敵兵からも慕われる人物として描かれており、読了後は源為朝の印象が変わります。史料が不足しているので、為朝がどのような人物だったのかはよくわかりません。為朝が琉球に渡ったとの伝承があることから、弓矢の腕だけでなく、兵をまとめる才能も持っていたのかもしれません。

そして、何の縁もない琉球を支配したとの伝説から、多くの人々に慕われる器量を持っていたのではないでしょうか。

鎮西八郎為朝(下)-村上元三
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