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天平の甍

戒師を日本に招くため、普照と栄叡は、遣唐船に乗り込みます。唐に到着した普照たちは様々な名所仏蹟を訪ね歩きます。ある日、普照は、数十年この地で経論を写している業行と出会い、大きな影響を受けるのでした。

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主な登場人物

あらすじ

朝廷で第九次遣唐使発遣が天平4年(732年)に議せられ、留学僧として大安寺の普照と興福寺の栄叡が渡唐することが決まります。

その頃、課役を免れるため百姓は争って出家し、また、僧尼の行儀の堕落も甚だしく、正式の授戒制度を布くことが必要であると考えられていました。そこで、普照と栄叡が渡唐して、すぐれた戒師を迎えることになったのです。

2人が乗り込んだ遣唐船には、他に戒融と玄朗の留学僧もいました。

4人の留学僧は、唐に到着し、普照、栄叡、玄朗は都の名所仏蹟の見物をしましたが、戒融は自分一人で行動します。

普照は、戒師を招ずることを託されているので、この地でしっかり勉強しなければならないと考えていました。一方、戒融は、戒師を招ずことはそれほど難しくなく、手あたり次第交渉して日本に行ってもらえば良いと考えていました。そして、戒融は、道璿(どうせん)を戒師としてはどうかと提案し、日本に渡ってもらうことにします。

ある時、普照は、日本に帰国予定の僧・景雲と会い、30年近くこの地にいる業行という僧の存在を教えられました。最初に業行とあったのは玄朗でした、彼は、普照に対して、一度、業行と会っておくと良いと述べます。

後日、普照は業行に会いに行きます。業行は、20年以上経論を写し続け、いずれ写し終えた経論を日本に持っていくつもりでいました。

この業行との出会いが、その後の普照に大きな影響を与えるのでした。

読後の感想

奈良時代の留学僧普照を主人公にした作品です。

普照とともに遣唐船に乗った栄叡は、戒師を招ずことを使命とし、やがて鑒真(鑑真)和上を日本に迎えることになります。本作は、普照の留学から鑒真の来日までの経緯を描いています。

鑒真は、何度も海を渡ろうとして失敗し、やがて失明します。それでも、日本に渡ることを諦めず、ついに来日して真の仏教を広め、唐招提寺を建立します。

何度失敗しても海を渡ることを諦めなかった鑒真に胸が熱くなりますが、本作を読むと、業行にも心打たれるものがあります。業行が数十年に渡って写し終えた経論が日本にもたらされることは、戒師を招くことと同等かそれ以上の価値があったのではないでしょうか。

一方で、遣唐使として留学したものの、目的を果たせなかった僧がいたことも知っておくべきでしょう。一度、唐に渡ると20年くらいは日本に戻ることができません。生半可な気持ちで遣唐使になったわけではないでしょうが、20年も唐で勉強し続けるとなると挫折する者が出てきても不思議ではありません。

唐に渡るのも、唐から来日するのも、当時の船では困難を極め、目的を果たせず亡くなった人は多数いました。我が身を犠牲にしてでも日本を良くしたいとの強い思いがあっても、遣唐使としての役割を果たすことは非常に難しかったことでしょう。

天平の甍-井上靖
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