HOME > 作家別 > 永井路子 > 噂の皇子

 

噂の皇子

三条天皇の第一皇子敦明を主人公にした「噂の皇子」、和泉式部の恋愛遍歴を描いた「桜子日記」、平将門と関係がある祈祷師に会いに行った僧を描いた「風の僧」、源義経と山下義経の奇病なつながりを描いた「二人の義経」など8作品を収録。

収録作品

  1. 噂の皇子
  2. 桜子日記
  3. 王朝無頼
  4. 風の僧
  5. 双頭の鵼
  6. 二人の義経
  7. 六条の夜霧
  8. 離洛の人

噂の皇子

主な登場人物

あらすじ

ある夏の夜更けに藤原実資の家に式部卿宮敦明の使いと名乗る者が、絹の借用を求めてやって来ました。

この頃、敦明の使いと称して米や絹をたかる者があちこちで現れていたことから、藤原実資の家人が用心していると、使いの者はいつの間にかいなくなっていました。

他にも同じような事件が起こり、怪しい男が逃げ込んだ先が敦明の屋敷だったことから、追手の者は躊躇していました。その時、敦明が帰宅し、追手に屋敷内を探すことを許可します。

これを知った母の娍子は、上に立つ者は下の者をかばうものだと言って、敦明を叱るのでした。

読後の感想

三条天皇の第一皇子敦明親王を主人公にした短編です。

三条天皇は、藤原道長の政敵であり、道長が天皇の外祖父になるのを阻止し続けたことで知られています。本作は、政争に巻き込まれる敦明親王の立ち回りの清々しさを描いています。

道長は、九条家の朝廷での地位を確固たるものにすべく、敦良親王の立太子を望んでいました。しかし、三条天皇は、我が子敦明を東宮とすることを夢見ており、敦明はその夢を叶えるために天皇を陰ながら支えます。

敦明は、三条天皇の願い通り東宮となりました。しかし、今度は、母娍子の実家小一条家の人々の目の色が変わり始めます。

右も左も、権力欲むき出しの朝廷で、敦明の進退が一際爽やかに感じさせます。

桜子日記

主な登場人物

あらすじ

10歳になるかならずの頃、和泉式部は、なにがしの若者から真剣な恋文を贈られました。彼女の恋愛遍歴はここから始まります。

和泉式部は橘道貞と結婚したものの、彼が仕えていた昌子内親王の崩御により和泉に下ることになると離婚。その後も、弾正宮、その弟の帥宮と逢瀬を重ねていくのでした。

読後の感想

平安時代の女流歌人和泉式部の恋愛遍歴を描いた短編です。

物語は、彼女に仕える桜子の視点で進んでいきます。本作が「桜子日記」となっているのは、桜子が見た和泉式部の恋模様を日記に記していたという設定になっているからでしょう。

子どもの桜子が、和泉式部が入れ替わり多くの男性と関わっていくことを徐々に理解していく生々しい作品に思えますが、桜子の感情が表に出てこないので、意外とあっさりと読めてしまいます。

王朝無頼

主な登場人物

あらすじ

人より背が高い鈴鹿丸は、美濃守の秦貞友に都への荷運びを命じられました。

体のわりに非力な鈴鹿丸は、都まで荷物を運んだ後、貞友の命で都に残り、相撲人として召し出されることになりました。しかし、筋骨たくましい他の相撲人に投げ飛ばされる日々が続いたことから逃げ出し、美濃へ帰ろうとします。

ところが、何も持たずに逃げ出した鈴鹿丸は、途中で疲れへたり込んでしまいました。そんな時、藤原保輔に仕える直則という男に声をかけられるのでした。

読後の感想

本作は、「桜子日記」とともに読むことでおもしろさが増す短編です。

右も左もわからないまま、都に連れていかれた青年鈴鹿丸。相撲人に投げ飛ばされ痛い目をしていたところに手を差し伸べた藤原保輔に仕える直則は、親切に鈴鹿丸に接します。

都で散々な目に遭った鈴鹿丸は、都人はみんな嘘つきか無頼者だと思うようになりましたが、直則のような親切な者に声をかけてもらった幸運をありがたいと感じていました。

後半は、ハッピーエンドになりそうな展開ですが、最後の最後まで気を抜かずに読みましょう。

風の僧

主な登場人物

あらすじ

坂東の妙見堂に不思議な霊力を発揮する滝夜叉という祈祷師がいました。

その滝夜叉のもとに2人の男が訪れます。1人は目つきが鋭い若者、もう1人は僧侶。

2人は、百姓に混ざって滝夜叉の話を聴いていましたが、やがて、彼女に特別な願いをするのでした。

読後の感想

平将門の伝説を題材にした短編です。

坂東を手中に収め、親皇と名乗った平将門は、藤原秀郷に討ち取られました。しかし、その後、将門は藤原秀郷に討ち取られておらず、どこかで生き続けているとの噂が広まり、多くの人々がそれを信じていました。

平将門から霊力を授けられたと言う滝夜叉。彼女の正体はいったい誰なのか。

双頭の鵼

主な登場人物

あらすじ

源頼政が謀反を起こし、非業の死を遂げました。

歌人として知られた頼政が、なぜ、77歳にして挙兵したのか。娘の二条院讃岐は、乱後もずっと疑問に思っていました。

また、三井寺の葉上房(ようじょうぼう)は、平治の乱で頼政が形勢を見ながら戦っていたのを知っており、本当に謀反を起こす気があるのか疑っていたのですが、以仁王に殉じて戦死したのを知り、ますます頼政の行動を不思議に思うようになります。

建寿御前は、以仁王を捕らえに追手が屋敷に向かっていることをいちはやく伝えた頼政を信用していました。しかし、追手の中に頼政の養子の兼綱がいたことから、頼政は以仁王と平家のどちらに味方するつもりだったのかわからなくなります。

そして、郎党の藤七は、頼政が人の恨みを買わぬよう気を配っていたのに息子の仲綱が以仁王の挙兵に乗り気だったことから、頼政を謀反に走らせたと語るのでした。

読後の感想

源頼政が以仁王とともに打倒平家に起ちあがった史実を題材にした短編です。

高齢であった源頼政が、なぜ、平家に謀反を起こしたのか。その謎を4人の証言者が語ります。頼政の本心は、平家を滅ぼすことだったのか。それとも、形勢を見て以仁王に味方するか、平家に味方するか日和見していたのか。

二人の義経

主な登場人物

あらすじ

源義経は、異母兄の頼朝に見送られながら出陣しました。

義経の出陣の目的は、神馬10匹を太神宮に奉納するため。頼朝は、義経に猛勇は慎むように言われていましたが、旅の途中、神通丸と名乗る盗賊に道をふさがれ力づくで通ろうとします。

ところが、我が名を名乗ると、神通丸は態度を変え、義経の旅に危険が及ばぬよう手配すると言い出したのでした。

読後の感想

源義経を主人公にした短編ですが、物語の中で存在感があるのは、山下義経です。

義経と言えば、源義経が有名ですが、同時代にもう一人義経がいました。そして、その義経も源氏だったため、源義経なのですが、山下義経と呼ばれることの方が多いです。

源頼政と以仁王が打倒平家に起ちあがった時、源義経はまだ子供でした。一方の山下義経は、近江で挙兵し平家と戦っています。

本作は、山下義経と勘違いされた源義経をテーマとしています。

六条の夜霧

主な登場人物

あらすじ

男が六条の破れ築地の続くあたりを歩いていると、突然、少年が走り出てきました。

男は、少年を盗人と思いひねり上げると、少年はお化けが出たと言います。そして、自分は藤原道明に仕える梢丸で、道明がここに忍んできているのだと答えました。

女漁りの激しい道明は、密かにある女に会いに来ていたのでした。

読後の感想

女癖の悪い藤原道明が登場する短編です。登場すると言っても、藤原道明を主人公とした物語ではありません。

ある晩に少年の梢丸が出会った謎の男の正体は?

離洛の人

主な登場人物

あらすじ

関白藤原道隆の新築の邸では、ある男が来るのを待っていました。その男は、三蹟の一人に数えられる藤原佐理。

遅れてやってきた藤原佐理は、色紙形に文字を書き入れたあと、道隆から禄をもらいました。

今回の遅参のように佐理には、数々の失態があったのでした。

読後の感想

藤原佐理を主人公にした短編です。

藤原佐理は、芸術家としての印象が強いですが、公家であったことから本来は政治家として語られる人物です。本作は、藤原佐理の政治家としての面を描いています。

こう書くと、藤原佐理の政治家としての優秀さが見られるのかと思うでしょうが、実際はその逆で、彼の失態の数々が見られます。

噂の皇子-永井路子
取扱店(広告)