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大わらんじの男(5)

吉宗が、幕府財政の再建を進める中、彼の落胤と称する源氏坊天一が江戸を騒がせます。自分の子ではないとの確証を得られない吉宗でしたが、やがて事件は解決に向かいます。しかし、長年悩まされている米価の安定はいつまでも成し遂げることができず、ついに一揆が発生するのでした。

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主な登場人物

あらすじ

倹約で幕府財政の建て直しを図る吉宗。しかし、尾張藩主の徳川継友は、その方針に従おうとしません。

そんな時、吉宗の落胤と称する源氏坊天一が江戸を騒がせていました。吉宗は、彼の政事に反感を抱く者による嘘伝なのか探らせるものの、天一が紀州時代に関係を持ったよしという女子の子であると言っていることから、彼が本当に自分の子ではないかとも思うのでした。

天一坊事件は後に解決するも、吉宗を悩ませ続ける米価の下落は容易に収まりません。旗本や農民の生活は貧しくなり、ついに一揆が起こる事態に発展。新井白石が金銀の価値を高め通貨量を減らしたことが景気悪化の原因であることに気づいた大岡忠相は、貨幣改鋳を行い通貨量を増やすことを献策し、吉宗もそれが望ましいのではないかと気づき始めます。

一方、継友の死後、尾張藩主となった宗治は幕府の倹約をあざ笑うように積極経営に乗り出し、吉宗に対抗するのでした。

読後の感想

『大わらんじの男』の最終巻です。

倹約により幕府財政の建て直しに成功した吉宗でしたが、旗本や農民の暮らしは一向に楽になりません。

その原因となっているのは、絶対的な通貨量の不足でした。どんなに年貢の収量を増やしたところで、流通する金銀が少ない以上、米価は低い水準で維持されますから、旗本の暮らしを良くすることは困難な状況。

だから、貨幣改鋳で通貨量を増やすことが必要になるのですが、その噂を聞き付けた両替商が純度の高い金銀を貯め込み、悪貨が良貨を駆逐する状態を作り出す結果となりました。

さらに吉宗を悩ましたのが、蝗(いなご)の大量発生でした。全国各地で蝗に米を食い尽くされ、餓死者も発生。ついに一揆に発展することになります。本作の後半は、米価の安定が中心となり、吉宗がそれにいかに苦心していたかがわかります。

この吉宗の政事を真っ向から否定したのが尾張藩主の徳川宗治でした。時代劇では、宗治が吉宗のライバルとして登場することが多いですが、本作でも吉宗の倹約を無視して積極経営に乗り出す宗治が描かれています。

経済を回すためには宗治の積極経営の方が望ましいのですが、しかし、宗治の政策は尾張藩の財政を傷ませる結果となり、やがて破局を迎えます。

本作は、米と金銀という2種類の価値尺度を併用していた江戸時代の経済政策の難しさを時代小説という形で読者に教えてくれてます。

大わらんじの男(5)-津本陽
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